僕は一人、温泉宿にやってきた。
お笑い芸人を目指しているのだが、最近あまりにも疲れが溜まっていたので自分へのたまのご褒美に、と温泉につかりにきたのである。
普通の温泉では面白くないので、秘湯と呼ばれる温泉にやってきた。
僕の他に入浴している人はいなかったので、僕はギャグの練習をすることにした。
得意のギャグを誰もいない温泉で言うと、温泉がぼこぼこっと泡立った。
この温泉は炭酸湯なのかなと思ったが、ギャグを言う度に温泉がぼこぼこと泡立つ。
もしかして……笑ってる!?
僕は嬉しくてギャグを連発した。
ぼこぼこぼこ! と温泉が泡立つ。
僕は、ライブのフィナーレを飾るべくとっておいた渾身の一発ギャグを披露した。
部屋に戻ってきた僕を見て女将さんが驚いた。
温泉で温まってきたはずの僕がガタガタ震えていたからである。
「お客さん、大丈夫ですか!?」
「え、えぇ」
どうやら最後の一発ギャグだけは考え直さないといけないらしい。
あのギャグを聞いた温泉が一気に冷めたのである。
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