ウソ茸の効能

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  私は小さな会社に勤めている。

 その会社の面倒くさいところは、社内行事が結構多いところだ。

 この秋も、社員旅行でキノコ狩りに行った。

 ぶつくさ言いながら参加したわけだけれど、社員旅行というのは行ってしまうとまぁまぁ楽しめてしまうから不思議だ。

 私は後輩の女の子とワイワイ言いながらキノコ狩りを割と楽しんでしまったのである。

 
 社員旅行から帰ってきてそんな話を彼氏にしていると、突然彼が顔をしかめてこう言った。

「おまえ、俺のこと不細工だなって思ってるだろ」

「え?」

 私は思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

 そんなこと思っていない。むしろ逆で、かっこいいなぁなんて思っていたのである。

 それから彼が言うことを総合的に考えると、どうも彼に私からテレパシーのようなものが伝わってしまっているようである。

 しかもその内容は考えていることとまったくの逆になっている。

 もしかしたら、キノコ狩りの時に食べたキノコにおかしなものが混じっていたのかもしれない。

 どうしたことかと思い、私は翌日病院にやってきた。

「うーん、別に異常はないようですが」

 それが医師の診断だった。

「でも、なんかおかしなことが起きてて」

 私は必死にそう訴えかけたが、医師は「異常ないですねぇ」以外何も言わず、その対応に腹が立った私は思わず、このハゲ頭が! と心の中で悪態をついた。

 無駄な診断が終わり、帰ろうと思った私に医師は言った。

「ところで……あの、僕ってそんなにイケメンですか?」

「え!?」

 どうやらついた悪態が真逆に伝わったらしい。

「え、あ、そ、そうですね」

 私はなんとなくその場を誤魔化して病院を後にした。

 とにかくこんな状態で会社に行くわけにも行かないので、私は数日会社を休んだ。

 原因はキノコだろうと思っていたので、私はキノコでそうした症状が出てしまった時の対処法を調べた。

 すると “ゴーヤとカカオをすりつぶしたものに茗荷をかけたものを食べると早く治る”なんていうとんでもない対処法が載っていた。

 藁にもすがる気持ちで試してみたところ、なんと効果があった。

 その謎の物体を食べてみた後、彼を呼んで実験してみると、彼はもう何も聞こえないと言った。

 翌朝、私が会社に向かうと後輩の女の子がやってきて「わ、今日も不細工だな〜」と言った。

 あまりのことにたじろいだ私だったが、後輩ちゃんがその後普通に「おはようございま〜す」と言うのを聞いて、ようやく何が起こったのか理解した。

 そうか、キノコに当たったのは私だけではなかったんだ!

 私は運良く彼氏がズバッと教えてくれたので自分の症状に気付けたが、後輩ちゃんはそうじゃなかったのかもしれない。

 私はこっそりと、おそらくキノコが原因で私の身に起きたことを後輩ちゃんに話した。

 信じてもらえないかもなと思っていたのだけれど、後輩ちゃんは両手をパンッと合わせてこう言った。

「そっか! だから最近、社長の機嫌が良かったんですね」

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