私の会社にまた面倒な制度ができた。
出社した時の「香りチェック」である。
確かに私たちの仕事は直接お客様に会うことが多いので、体臭を気にした方がいいというのは分かるが、それにしても少々やりすぎのような気もする。
朝、会社のあるビルにつくと、入り口にロボットが立っていた。
このロボットが香りを審査するのである。
香り審査待ちの社員がみんななんとなく不満そうに並んでいる。
順番が回ってきたのでロボットの前に立つ。
ロボットは手をこちらに近づける。
このロボットは手で香りをチェックするらしい。
「OKデス」
なんとかチェックをクリアした私は、ほっと一息ついてビルの中に入った。
チェック自体はそこまで厳しいものではないと聞いていたが、それでも緊張はするのである。
ある日のこと。
香りチェックの待ち列がとんでもないことになっていた。
どうやら何か揉めているらしい。
ちょうど近くに同じ課の後輩がいたので、何があったのか聞いてみることにした。
「どうしたの?」
「なんか、坂井さんがチェックにひっかかってるみたいで」
「坂井さんが!?」
坂井さんは経理部に所属する男性社員で、私の知る限り、あれほど爽やかな香りのする人はいない。
香水も品の良いものを使っているようだし、坂井さんがチェックに引っかかるとは思えないのだが……。
結局、何度やっても坂井さんはチェックを通過できなかったようで、列から離れた。
困惑している坂井さんに私が声をかけると、坂井さんは頭をかきながら「一回家に帰ってシャワーでも浴びてくるよ」と苦笑いしていた。
結局、その日以降、坂井さんが会社に顔を見せることはなかった。
解雇処分になったのである。
まさか香りが原因なのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
坂井さんは密かに会社のお金を横領していたそうなのだ。
人は見かけに寄らぬものだな、と思いつつ、あの香りチェックのロボットの性能についても驚いている。
まさかあのロボット、事件の香りまで嗅ぎつけるとは……。
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