ひなたスプリンクラー

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 私はある運動場の管理人として働くことになり、前任者からの引き継ぎを受けた。

 この運動場には「ひなたスプリンクラー」という珍しい設備があるらしい。

 ひなたスプリンクラーは日光を溜めておいて、雨の後などに日光を放射して乾かしてくれる装置なのだという。

 自動で雨を検知して、日光を放射するのだそうだ。

「基本は勝手に作動してくれるんですけど、一回手動でやってみますね」

 前任者がスイッチを押すと運動場のそこかしこにある放射口から日光色の光が放射された。

 事前に水を撒いておいた場所がたちどころに乾いた。

「こんな感じですね」

 前任者は得意げに言った。

 管理人としての業務に慣れ始めたある夏の暑い日。

 運動場では中学生野球チーム同士の試合が行われていた。

 その日はライバル校同士の試合だということで、なるほど一進一退の攻防が繰り広げられている。

 私は思わず試合に見入ってしまった。

 一点入れば次の回で相手チームが一点入れ返す。

 白熱した試合は延長戦の末ようやく決着がついた。

 そしてその試合がすごかったのはどうやら試合内容だけではなかったらしい。

 新聞にその試合の記事が載った。

 その見出しは「運動場で日本最高気温を更新か」というものである。

 SNSで「気温42度超えてるんだけど」という温度計の画像つきの投稿があり話題になったのだ。

 私は新聞記者から”温度計は壊れていなかったか”と取材を受けたが事前に調査したとおり「壊れていない」と回答した。

 結局、正式な計測ではないということで最高気温の更新はお預けになったが、最終的には両チームの選手に取材が行われるほど話題になったのだった。

 私は新聞の『運動場の管理者によると、温度計は壊れていなかったという(記者)』という部分を何度も読み返した。

 まさか自分の言葉が新聞に載るなんて。

 しかし……。

 そんな騒動から数日経った頃、私はとんでもないミスに気がついた。

 ひなたスプリンクラーの点検をしていた時、雨を検知するパネルに白い点々とした何かが付着しているのを見つけたのである。

 なんだろうと思い拭き取ろうとした時、私は気がついた。

 これは……塩だ。

 あの日は一日中晴れていて、確かに暑かった。

 だからこのパネルに雨が降り、その誤作動でひなたスプリンクラーが作動し、気温が上昇したのだろう。

 そう、降ったのはあの日試合をしていた選手たちの汗の雨……。

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