「占い出たよー」
そんな母の声を聞いた僕はテレビのある洋間……ではなく和室に向かった。
両親の寝室として使われている和室にあるふすまに、家族みんな一人ひとりを表す絵が現れている。
僕の絵は涙を流していた。
やってきた妹に「あー! さてはお兄ちゃん、フラれるんじゃない?」とからかわれる。
「そんなわけないだろ!」
と言いながら不安になった。
この”ふすま占い”はテレビなんかでやっている占いと違い、絶対に当たるのだ。
憂鬱な気持ちで学校に向かった僕だったが、昼前に僕は確かに泣くことになった。
調理実習でたまねぎを切ったのである。
なんだ、そんなことだったのかと僕は胸をなでおろした。
我が家のふすまに初めて占いが現れたのは、ちょうど僕が生まれた頃らしい。
突然、ふすまに赤ちゃんの絵が現れたなと思ったら僕が生まれたそうだ。
妹が生まれた時もふすまに絵が現れたらしい。
ふすまには毎日絵が現れ、その絵の通りの出来事が起こる。
我が家では自分の占いを確認して家を出るのが習慣になっていた。
ふすま占いは朝七時半頃に現れるので、ちょうどいいのである。
まるでテレビの占いみたいだ。
そんな僕は大学生になって家を出た。
家を出た後も占いの内容を知りたかった僕は、母に写真でふすま占いの結果を送ってもらうことにした。
だがそそっかしい母はよく写真を撮るのを忘れたので、僕は実家の和室にライブカメラを設置した。
これでいつでも自分でふすま占いを確認することが出来る。
ある日、僕は夜遅くまで起きて大学のレポートを書いていた。
何気なくライブカメラの映像をチェックすると、なんとふすまに絵が現れている。
こんな時間におかしいなぁと思って見ると、現れたのは河童の絵だった。
河童……?
なんだろう、河童でも出るのだろうか。
僕が首を傾げてふすまを見ていると、今度は炎の絵が現れた。
僕はそこではっと気がついた。
まさか、これは火事を暗示しているのではないか。
親父は何度注意しても寝タバコをするので、それが原因で……?
僕はスマホを持って実家に電話をかけた。
しかし両親共に一度眠ったら起きないたちなので、全然出ない。
僕は慌ててタクシーに乗り込んだ。
タクシーの車内で、そうだ妹なら起きているかもと思い妹にも電話をかける。
数回のコールの後、妹が電話に出た。
「なぁに、お兄ちゃん。こんな夜中に……」
「おい、今すぐ親父たちの寝室に行ってくれ!」
僕は妹に訳を説明した。
妹は慌てて両親の寝室へと向かった。
僕が家につくと、家族みんな、和室で呆然としていた。
ふすまが燃えてしまったのである。
原因はやはり親父の寝タバコらしい。
幸い火は燃え広がらずに済んだようだが、親父の頭に少し火がついたらしく、親父はまるで河童のような髪型になっていた。
「こんなサッカー選手いたよなぁ!」
そんな風におどけた親父は母にこてんぱんに怒られ、しょげかえっていた。
それから和室には新しいふすまを買った。
ふすまが消えて、もう占いも見られないなぁと思っていたのだが、そうはならなかった。
母が、あのふすまが燃えた灰を取っておいたのだ。
すると、その灰が毎朝占いをするようになった。
灰が一人でに動いて、ふすまの絵と同じように占いをしてくれるのだ。
僕も母に灰を分けてもらって持ち帰った。
灰は一人暮らしの僕の部屋でもきちんと毎朝占いをしてくれるのだけれど、一つ難点がある。
今朝現れた絵は、母が柿をもらっている絵だった。
そしてその奥で河童がのんきに昼寝をしている。
占いのふすまは、灰になって少し機能がおかしくなったのだろう。
灰が表す占いは、毎朝家族誰のものか分からないのだ。
僕はため息をつきながら母に電話をかけた。
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