片思い草というものがある。
その草は地面から生えると人間に「好きな人はだぁれ」と問いかける。
片思い草の質問に答えて、その想い人も同じように答え、その結果が両思いなら「両思い花」が咲くのだ。
おそらくカップルに好まれる草だろう、と思う。
片思い草を使ってお互いの思いを確認するのだ。
実は相手のことをもう好きじゃなくなっている人はヒヤヒヤするだろうな、と私は思った。
私は片思い草の種を買って、こっそりと幼馴染のシュージの家の近くに撒いた。
片思い草が生えてきたら、私は片思い草の質問に「シュージ」と答える。
それでもし、シュージもこの片思い草の質問に答えてくれたら。
その結果、花が咲いたら。
そんなことを考えてドキドキした。
種を撒いてから三ヶ月後、もうすぐ夏がやってくるという季節に片思い草は地面から生えてきた。
片思い草は私に「好きな人はだぁれ」と聞いた。
一度辺りを見渡して、誰もいないことを確認してから「シュージ」と答えた。
まだ花は咲かない。当たり前だよね。
それから私は、何度も片思い草の様子を見に行った。
花は咲いていない。
シュージはこの片思い草に質問をされただろうか。
質問に気づいていないだけならいい。
でももし、彼が片思い草の質問に他の女の子の名前を答えていたら。
そう考えると胸が痛くなる。
結局、私が植えた片思い草は花を咲かせることなくしおれてしまった。
私は草の側にかがみ込み「ごめんね」と言いながら泣いた。
悲しかったからではない。
この子は、ちゃんとカップルのところに生えれば綺麗な花を咲かせることができたのかも、と思うと悪いことをしてしまったな、と思ったのだ。
「ミナ?」
突然声をかけられて振り返ると、そこにシュージが立っていた。
「あっ……」
「どうした? 具合でも悪い?」
「あ、ううん。違うの。草が、その、枯れちゃって……」
シュージが私の肩越しに草を覗き込む。
「ちょっと待ってろ」
シュージはそう言って家の中に入っていった。
そしてすぐに戻ってくる。手には緑色の容器が握られていた。
「最近かーちゃんがガーデニングにハマっててさ」
そう言ってシュージはその緑色の容器に入っている液体を片思い草が生えている土にかけた。
どうやら植物の栄養剤らしい。
「これやったら元気になるかも」
シュージはそう言ってニカッと笑った。
背が大きくなって、声も全然変わっちゃって、でも昔から笑い方だけは全然変わらない。
「ありがとう」
私がシュージにお礼を言うと、片思い草が少し元気になったような気がした。
「お、これが効いたのかな」
「そうかも」
「よかったな」
「うん」
二人で片思い草を眺める。
やっぱり好きだなぁ。
横にいる気配も昔のまま。
最初は柔らかくて、大きくなったら少し硬くて頼もしくなった、そんなシュージの気配。
「ミナ」
「何?」
「あ、いや、なんでもない……」
シュージがそんなことを言いながら頭を掻いた時、片思い草につぼみができて、パッと花が咲いた。
「えっ」
どうして?
なんで花が咲いたのだろう。
「おぉ、花、咲いたな」
そんな事を言いながら花を眺めるシュージの横顔。
彼はさっき、私の名前を呼んだ。
それじゃあ……。
カッと顔が熱くなる。
彼はきっとこの花のことを知らないだろう。
「咲いたね」
私はシュージの横でそう言いながら、彼にはこの花のことは黙っていよう、なんて思った。
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