キャンプのお供に羊を

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 私は彼と一緒にキャンプ場にやってきた。

 彼は新しい物好きの性格である。

 電気自動車も発売してすぐに買っていた。

 今日はその電気自動車に乗ってキャンプ場までやってきたのだった。

 そんな彼の新しいもの好きの性格は十分理解していたつもりだったのだけれど、しかし、まさかここまでよく分からない人だったとは……。

「今日はこいつに泊まるんだ」

 彼がそう言って真っ白い毛をした羊を指差した。

 羊である。

 メェ〜と鳴く羊に、彼は”泊まる”と言う。

 いくら新しい物好きと言っても、これは先進的すぎるだろう。

「こいつをね、こうするんだ」

 私の心配をよそに、彼は羊の毛をわしゃわしゃっとし始めた。

 すると、なんと羊の毛がもこもこと増えていった。

「え、何これ!?」

 羊の毛が増えて……増えて、ものすごく増えていく。

 あっという間に私は羊の毛の中に格納されてしまった。

 彼の姿が見えない。

 ど、どうすればいいのこれ!?

 私が羊の毛に迷い込んで狼狽していると、毛の中から彼がもこっと姿を現して「こっちだよ。来てごらん」と私の手を引いた。

 彼に連れられていくと、巨大な毛の塊の中に大きな空洞が出来ている場所に出た。

 そこに羊の顔があって羊は「メェ〜」と鳴いた。

 羊の毛の中はとても温かかった。

「ここで寝るんだ。温かいから防寒着も着なくていいし、床も毛だから寝袋も必要ないんだよ」

 彼がそう言って笑いながら羊の毛に寝そべる。

 私も同じように寝そべるとふかふかの寝心地が心地よく、まだ来たばかりなのに眠ってしまいそうになった。

 その後、私たちは一旦羊のテントを抜け出して、炊飯場でご飯を作って食べた。

 キャンプのご飯って、なんていうかいつもよりお手軽料理なのにいつもより美味しいから不思議だ。

 お腹いっぱいになった私たちは羊のテントに戻って、ふかふかの寝心地を楽しみながら眠ったのだった。

 
 はっと目を覚ますと、まだテントの中は真っ暗だった。

 随分ぐっすり眠った気がするけれど、まだ早い時間だったらしい。

 彼もまだ横で寝ていたので、私は再び目を閉じた。

 それからまたしばらくして、私は目を覚ました。

 まだ羊のテントの中は真っ暗である。

 あれ、もうかなり寝たような気がするのだけれど……。

 腕時計を見てみると……なんともう昼の十一時だった。

 えぇ!?

「ねぇ、起きて起きて!」

 私が彼を揺さぶると、気持ちよさそうに眠っていた彼が目を覚ました。

 寝ぼけ眼の彼と一緒に羊のテントを抜け出す。

「あっ……!」

 私たちは二人同時に声をあげた。

 なんと、まだ真っ暗だと思っていたのは羊の毛のせいだったのだ。

 羊の毛が、昨日は真っ白だったのに今は真っ黒に焦げている。

 彼が慌てて調べると、どうやら昨日この辺りは雷雨に見舞われていたらしい。

 羊の毛が真っ黒になっているということはこの羊に雷が落ちたのだろうか。

「あ!」

 私たちは慌てて羊のテントの中に戻った。

 もし雷が落ちたのだとしたら、羊は……!

 そんな私たちの心配をよそに、羊は平気な顔をして「メェ〜」と鳴いていた。

「良かった……」

 私たちは安心してその場にへたり込んだ。すると、羊が「ゲプッ」とゲップをした。

 彼が笑いながら言った。

「どうやら電気を溜め込みすぎたみたいだね」

「溜め込む?」

「うん。こっち来て」

 彼と一緒にテントの外に出た。

「ほら、あれ」

 彼の指差す先に、羊の尻尾があった。

「こいつはさ、尻尾を回すと非常用電源にもなるんだ」

 そう言いながら彼が羊の尻尾を持って回すと、羊のテントの中からモーター音が聞こえた。

「人力で発電できるんだけど、今は落雷のおかげでMAXまで電気が溜まっているみたいだ。どんどん使おう」

 それから私たちは羊の電源でスマホの充電をし、帰りはガソリンで走るはずだった電気自動車に充電をしてから帰路についたのだった。

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