僕の住む村には雪舟伝説という伝説がある。
この村で人が亡くなると、雪の船が山の頂上に向かって走っていく、という伝説だ。
その船は人の魂を載せていて、頂上につくと山に帰るらしい。
だからこの村では、人が死んだ時は山に入るなと言われている。
自分も舟で連れて行かれてしまうからだ。
「俺ぁ違うと思っている」
僕のおじいちゃんは、雪舟伝説の話をするといつもこう言う。
「雪舟の行き先は山じゃねぇさ。なぁ、タク。俺が死んだらよぉーー」
じいちゃんとの約束を果たすために、僕はじいちゃんの葬儀が終わった後、すぐに山へと走った。
その日も雪が降っていて、僕は雪をかき分けて山の頂上まで登った。
僕が頂上についた時、山が不気味に静まり返っていた。
音のない吹雪が山に降り注いでいる。
と、山の下の方から何か巨大なものがこちらにやってきた。
それはゆっくりとこちらに進んでくる。
雪の中、僕が目を凝らしてみると、なんとそれはガレオン船だった。大型の帆船である。
きっと、大工であるじいちゃんが勝手に改造したのだろう。
じいちゃんがガレオン船の船首で腕組みをして立っていた。
「じいちゃぁん!」
僕がガレオン船に向かって叫ぶと、じいちゃんがにやりと笑った。
じいちゃんが腕組みを解いて空を指差す。
そして巨大なガレオン船は山の頂上を超えて、空へと飛び立った。
その瞬間、吹雪が止み、真っ青な空が現れた。
そしてじいちゃんのガレオン船はその空へと消えていった。
母さんたちが朝からあたふたと準備をしている。
「そんなの作る必要ないよ」と言ったら怒られた。
でも、じんちゃんにそんなのは必要ないのだ。
その時、山の方であの静かな吹雪の気配がした。
家の窓から山の上を見る。
ほら、やっぱりじいちゃんはナスの馬なんかには乗ってこない。
じいちゃんが乗って帰って来るのは、あの巨大なガレオン船だ……!
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