魔法の門限

ショートショート作品
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 最近、友だちと公園で遅くまで話すことにハマっている。話題はやっぱり恋バナが多い。

 だけど……。

 あぁ、ほら。

 私の体は一人でに動いて、帰り支度を始めた。

「もう帰る時間?」

 友だちに聞かれて私は「ごめん!」と謝りながら歩き始めた。

 私のお母さんは由緒正しき魔法使いの家系らしく、魔法を使える。

 そのお母さんが「帰ってきなさい」と呪文を唱えるだけで私は帰り始めてしまうのだ。

 小さい頃はお母さんの魔法に憧れて私も魔法が使いたいとねだったけれど、どうやら私に魔法使いの血は受け継がれなかったらしい。

 それに、今ではお母さんの魔法はちょっと鬱陶しいだけだ。魔法が使いたいなんて全然思わない。

 ある日のこと。

 その日はいつも魔法をかけられる時間になっても私の体は動き出さなかった。

 友だちに「まだ帰らなくて大丈夫?」と聞かれ、私は「平気みたい」と返事をした。

 しばらく話をしていたが、こうなってくると逆に気になる。結局私は自発的に帰ることにした。

 帰りながら、もしかしたらお母さんのそういう作戦かもしれないと思って、帰ってきたことをちょっと後悔した。

「ただいまぁ」

 玄関の扉を開けると、家の中が暗かった。

「お母さん?」

 声をかけながら家の中に入ると、台所でお母さんが倒れていた。

「お母さん!」

 私はお母さんに駆け寄った。お母さんが苦しそうな息を吐いている。

 救急車を呼び、お父さんに電話をした。

 お母さんは結局しばらく入院することになった。

 毎日見舞いにやってくる私に、お母さんは「そんなに毎日来なくても、たまには友だちと遊んできていいのよ」なんてことを言う。

「私が来たいからいいの!」

 と私は反抗した。

 お母さんの入院生活は結局一年間にも及び、その結果お母さんは帰らぬ人になった。

 しばらくしてからお父さんが「魔法使いは寿命が短いらしい」と教えてくれた。だから私が魔法使いの血を受け継いでいないことを知ってお母さんはとても喜んだそうだ。

 お母さんの遺品の中から、魔法の書が見つかった。

 そこにはどうやら魔法の使い方や魔法の呪文が書かれているようだったが、全然読めなかった。

 どれが門限の魔法だったんだろう、なんて思いながら魔法の書を眺める。

 私は魔法を一つも使えるようにならなかったけれど、一つだけ魔法の呪文を唱えられるようになった。

「お母さん」

 そう呼ぶと胸がじんわりと温かくなる。まるでそこにお母さんがいるかのように。

 私が呼ぶ度に、きっとお母さんが来てくれているんだと思う。

「お母さん、行ってくるね」

 私は今日も魔法の呪文を唱えてから、家を出た。

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