転校生の成海さん

ショートショート作品
スポンサーリンク

 転校生の成海さんはみんなの人気者だ。

 何てったって可愛いし、愛想もいい。

 転校してきたばかりなのにすぐみんなに馴染んだ。

 一部の女子からは煙たがられてるみたいだけど、それはまぁやっかみの範疇だ。

 成海さんは可愛くてスポーツもできるスーパー女子だけど、おっちょこちょいなところがある。

 よく物を落とすのだ。

 歩きながら飲んでいたペットボトルを落としたり、ペンを落としたり。

 男子なんかはそういうのを喜んで拾っている。

 やっかんでる女子は、あれはわざと落としてるんだ、なんて言う。

 しかし私には分かる。

 あれはわざとなんかじゃない。

 でも、おっちょこちょいとも少し違う。

「成海さん」

 私は誰もいない廊下で成海さんの背中に声をかけた。

 成海さんのそばにはいつも誰かいるから、こうやって声をかけられるタイミングを見計らっていたのだ。

 振り向いた成海さんは、やっぱり可愛い、美しい。

 それが私には怖かった。

 私は成海さんに言った。

「あんた、どこから来た?」

 成海さんは、よくわからないという風に首を傾げた。

 それから、可愛らしいソプラノの声でこう言った。

「前は東北の方に住んでたよ。その前はね」

「そういうことじゃない」

 私がそう言うと、成海さんはぴたりと口を動かすのをやめた。

 私は成海さんの目を見つめながら言った。

「分かってるよ、全部。あんたが何者かも」

 すると成海さんはにこりと笑って、振り返り歩き去った。

 翌日から成海さんは学校に来なくなった。

 先生も何の連絡も受けてないだろうから、困惑しているようだ。

 連絡なんか来るわけない。

 東北の方から引っ越してきたなんて嘘っぱち。

 全部、あの、物を落とす癖が物語っている。

 成海さんは落としているんじゃない。

“そうしても平気”だと思ってるんだ。

 成海さんは、ずっと遠くから来て、私たちの仲間だと偽っていた。

 彼女は、この星の人間ではないのだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました