転校生の成海さんはみんなの人気者だ。
何てったって可愛いし、愛想もいい。
転校してきたばかりなのにすぐみんなに馴染んだ。
一部の女子からは煙たがられてるみたいだけど、それはまぁやっかみの範疇だ。
成海さんは可愛くてスポーツもできるスーパー女子だけど、おっちょこちょいなところがある。
よく物を落とすのだ。
歩きながら飲んでいたペットボトルを落としたり、ペンを落としたり。
男子なんかはそういうのを喜んで拾っている。
やっかんでる女子は、あれはわざと落としてるんだ、なんて言う。
しかし私には分かる。
あれはわざとなんかじゃない。
でも、おっちょこちょいとも少し違う。
「成海さん」
私は誰もいない廊下で成海さんの背中に声をかけた。
成海さんのそばにはいつも誰かいるから、こうやって声をかけられるタイミングを見計らっていたのだ。
振り向いた成海さんは、やっぱり可愛い、美しい。
それが私には怖かった。
私は成海さんに言った。
「あんた、どこから来た?」
成海さんは、よくわからないという風に首を傾げた。
それから、可愛らしいソプラノの声でこう言った。
「前は東北の方に住んでたよ。その前はね」
「そういうことじゃない」
私がそう言うと、成海さんはぴたりと口を動かすのをやめた。
私は成海さんの目を見つめながら言った。
「分かってるよ、全部。あんたが何者かも」
すると成海さんはにこりと笑って、振り返り歩き去った。
翌日から成海さんは学校に来なくなった。
先生も何の連絡も受けてないだろうから、困惑しているようだ。
連絡なんか来るわけない。
東北の方から引っ越してきたなんて嘘っぱち。
全部、あの、物を落とす癖が物語っている。
成海さんは落としているんじゃない。
“そうしても平気”だと思ってるんだ。
成海さんは、ずっと遠くから来て、私たちの仲間だと偽っていた。
彼女は、この星の人間ではないのだ。
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