長く入院している病院で、私は「四季薬」を処方された。
もう病院の外まで歩けない私の為を思っての処方だろう。
四季薬を飲むようになってから、病院では感じたことのない春の温かい風の嬉しさ、夏の夜の沸き立つ気持ち、秋の爽やかさ冬の布団のぬくもりなど、忘れていた感情が湧き上がってきた。
ただそれだけながら、すごく良い薬なのだろう。
しかし私は、この薬を投与される本当の理由を知っている。
前に入院患者同士が話をしているのを聞いてしまったのだ。
「四季薬」別名、”死期薬”。
死が近い患者にせめてありし日の沸き立つ気持ちを思い出させようと処方される劇薬。
この薬を投与されたらもう終わり。
それが患者の間に流れる噂だった。
四季薬を飲む度に忘れていた記憶を思い出し、私の体は生きる喜びに包まれたが、その裏にある仄暗い現実を思うと気持ちが暗くなった。
しかし、そんな気持ちに反して私の体はどんどんと良くなっていき、なんと、とうとう退院にまでこぎ着けてしまったのだ。
「うん、何も問題ないですね。退院おめでとうございます」
そう言って退院前検診を終えた先生に、私は薬のことを聞いてみた。
すると先生は驚いた顔をしてこう言った。
「死期薬? とんでもない! 私たちの仕事は患者さんの命を救うことです。あの薬の正式名称は別にありますが、そうですね、言うならばあれは”士気薬”です。患者さんの生きるための”士気を上げる”、そんな薬なんです」
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