コヤギ博士に呼び出されて、私は海岸に向かった。
研究所ではなく海岸に呼ばれるなんて珍しい。
私が海岸につくと、博士は水着を着て待っていた。
博士のそばにはサーフボードもある。
サーフィンでもしようというのだろうか。
「波ハンドルで遊びに行こうではないか」
「へ?」
「行くぞ」
そう言うと、博士はおもむろにハンドルを取り出して、サーフボードに設置した。
「さぁ、早く乗りたまえ!」
博士がサーフボードにまたがりながら叫ぶ。
私は仕方なく博士の後ろにまたがった。
使い方が違うような……。
「行くぞ!」
博士が言った瞬間、サーフボードがすごい勢いで発進した。
「うわぁあ!」
「ははは。これは”波ハンドル”というものでな、このハンドルを差し込むと、その物が海の中の塩分や水分を推進エネルギーに変換し……」
「は、博士。ちょっとスピード速くないですか!?」
「う、うむ。……ブレーキ機能をつけ忘れた」
「うわぁ〜!」
私たちは海の上を猛スピードで進み、やがて無人島に不時着した。
その拍子に波ハンドルは壊れてしまった。
博士が「なんとか直してみよう」と修理に取り掛かる。
私は島を散策して食べ物を探した。
幸い木の実が見つかり、飲み水も見つけることができた。
これで何日かは持つだろう。
その日は夜遅くまで波ハンドルの修理を見守り、二人とも砂浜で眠った。
「おーい、コヤギ博士〜」
博士を呼ぶ声に目を覚ました。
見ると、なんと出発した時の海岸から誰かがコヤギ博士を呼んでいる。
どうやら、どういう原理かは知らないが島が動いてここまでやってきたらしい。
私とコヤギ博士は急いで島を出て海岸まで泳いだ。
「何やってるんだい、二人とも」
海岸から私たちを呼んでくれた人が不思議そうな顔で尋ねる。
「あっ!」
博士が島を見て叫ぶ。
「あれを見たまえ!」
博士の指差す方を見ると、島の高台に猿が一匹立っていた。
そしてその猿は島に突き刺さったハンドルを持って操作している。
島がゆっくりゆっくり遠ざかっていく。
噂に聞いたことがある。
この世界には海を漂う島がある。
その島の名前は、確か「ハンドル島」……。
ハンドル島を操縦する猿は見事なハンドルさばきで海の向こうに消えていった。
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