香り苔

ショートショート作品
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 ママ友の家に遊びに行った時のこと。

 彼女の家はなんだかいい香りに包まれていた。

 お手洗いを借りた時、便座に座ると、なんともいえない良い香りがあたりに漂った。

 お手洗いを出た私が「この香りって、芳香剤?」と聞くと、彼女は「ううん、かおり苔っていうの」と言った。

「トイレマットと便座カバーに小さな苔が生えていてね、その上を通ると香りがするようになっているの。苔って水に反応するんだけど、人体から微量に発散されている水分を感知して香りを発してくれるの」

「あ、もしかして服にも!?」

 彼女の服からはとても良い香りがしたのだ。

「あたり〜。この服にもかおり苔がいるんだ。服に苔をつけてくれるサービスがあるんだよ。よかったら紹介しようか」

「いいの?」

「うん。送るだけで加工してくれるから楽だよ。長い時間着ない時は預けたりしなきゃいけないんだけどね」

 彼女からかおり苔を生やすサービスを紹介してもらった私は、さっそく服を送ってみることにした。

 お気に入りの白いワンピース。

 返送されてきたワンピースに袖を包むと、なんともいえない香りがあたりに漂った。

 それから一年の月日が流れた。

 あのワンピースのことをすっかり忘れていた頃、衣替えをしようとクローゼットを開けたら、白いワンピースがなくなっていた。

 あれ、預けたんだっけ。

 私は電話で問い合わせをしてみたが、ワンピースは預かっていないという。

 あれぇ、おかしいな……。

 クローゼットには白いワンピースの代わりに緑色のワンピースがかかっている。

 もしや。

 緑色のワンピースを虫眼鏡で見てみると、苔がいっぱい生えていた。

 かおり苔が生えすぎたワンピースは香りが強すぎてもう着れなかった。

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