トイレ釣り

ショートショート作品
スポンサーリンク

 友人のサトウの家に遊びに来た。

 初めて来たのだが、割と綺麗な部屋である。

 一緒に遊ぶ予定のタカハシは少し遅れているらしい。

 サトウは出し抜けに言った。

「ここで釣りをしよう」

「え?」

 サトウは僕をトイレに連れて行った。

「このトイレは海につながっているんだ」

 サトウがそう言いながら便座を上げると、なんと本当に便座の中が海に通じていた。

「なんだよこのトイレ!」

「ははは、いいだろう」

「いや、いいっていうか……。トイレに行きたくなったらどうするんだ?」

「あぁ、本物のトイレは他にあるから大丈夫さ」

「ていうかそもそもなんでトイレが海に通じてるんだ?」

「家で気軽に釣りを楽しみたい人の為、だろう」

「為、だろうって。つながるにしてもなんでトイレなんだ……」

「家にあっても不自然じゃないからだろうな。便座は新品だから綺麗だぞ」

「だったら風呂でいいじゃんか」

「あぁ、確かに!」

 僕は謎のトイレの出現に面食らったが、サトウがいそいそと準備をするので、サトウと一緒にトイレの便座に釣り糸を垂らした。

 トイレの先にある海は魚がたくさんいる海らしく、どんどん釣れた。

「いれぐいだなぁ」

「どんどん釣ろう!」

 僕とサトウはトイレに釣り糸を垂らし、ひたすら釣りを楽しんだ。 

 と、どうやら大物がかかったらしく、釣り竿を引っ張っても抜けなくなった。

「お、おい、やばいぞ!」

「もっと力入れろ!」

 そんな風にサトウと悪戦苦闘していると、タカハシから電話が入った。

「寝坊したけど、もうちょっとで行けるわぁ」

「今それどころじゃないんだよ!」

「え?」

 僕はタカハシに今の状況を説明した。

「わ、分かった! 急いで行って手伝うわ」

 タカハシからの電話を切り、僕はサトウと一緒に釣り竿を引っ張った。

 すると、すぽんっと音がして大物が便座から出てきた。

「あぁ、よかった」

 なんてサトウと二人で息をついていると、インターホンが鳴ってタカハシがやってきた。

「おい、大丈夫か!?」

 家に飛び込んできたタカハシを見て、僕たちは思わず笑ってしまった。

 そうだ、確かに僕の説明が悪かった。

 僕から状況を聞いて急いでやってきたらしいタカハシの手には、トイレが詰まった時に使うラバーカップが握られていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました