終電逃しそば

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 仕事で遅くなって、終電を逃してしまった。

 あぁ、どうしよう。

 今月キツいからホテルに泊まるのはなぁ……。

 駅から出てくると、線路沿いの道に屋台が出ていた。

 あ、あれは……。

 噂に聞いたことがある。

 あれは「終電逃しそば」だろう。

 終電を逃した人しか食べられない屋台があるらしいのだ。

 屋台の赤い暖簾をくぐると、もわっとした湯気につつまれた。

 周りの席にも終電を逃したらしい人がいる。

 なんとなく妙な連帯感があるが、話しかけたりはしない。

 注文する前にラーメンが出てきた。

 割り箸を割って、食べてみる。

 噂通り、普通だ。普通の味だ。

 だけど今はこの普通のしょっぱさが染みる。

 体の中から温かくなった。

 うん、なんとかなるだろう。

 代金を支払って暖簾の外に出た。

 よし、こうなったら歩くか。

 道の暗闇の向こうに、光が見える。

 あれ、日没はとっくに過ぎたはずなのに……。

 え、もしかして、朝日!?

 始発電車が駅に到着する音が聞こえる。

 まさか、と思い振り返るが、そこにもう屋台はなかった。

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