僕は妙なアパートに住んでいた。
そこは「物が捨てられないアパート」だった。
ゴミなども出せないので、そのアパートで生活をするのは難しく、ただ寝に帰るだけという状態だった。
家具を買っても捨てられないので、家具は予め備え付けられていたものを使っていた。
おかしなアパートだが、なんと家賃は月に一万円だった。
本当に僕にとってはうってつけアパートだった。
僕はいわゆる”ミニマリスト”で、ほぼ何も持っていなかったからだ。
トイレットペーパーの芯は、部屋に入る前に抜いてから使っていた。
部屋の中で芯が残っても、捨てられないからだ。
そういえば、排泄物はいいらしい。
捨てるのではなく、流す、だからいいのだろうか。
風呂では、ゴミが出るのでシャンプーやリンスなどを使えなかったが、それでも僕には十分だった。
ちゃんと髪や体を洗いたければ、銭湯に行けばいい。
寝に帰るだけのアパートが欲しいと思っていた僕には、本当にうってつけの部屋だった。
あのアパートに住んでいた頃が懐かしい。
今では結婚して家庭を持ち、もちろんあのアパートにはもう住んでいない。
しかし、解約もしていない。
正確に言えば、できないのだ。
今でも、あのアパートで見上げていた天井のことを思い出す。
まさか、アパートに移っていた”情”も捨てられないとは……。
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