夕涼み街路灯

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 地球全体で温暖化が進む中、日本である発明がなされそこら中にあるものが建った。

 それは夕涼み街路灯と呼ばれるもので、それは見た目は普通の街路灯に見えた。

 しかしその街路灯の照明部分にはあるフィルターが設置されており、街路灯は特殊な光を発生させていた。

 特殊な光とは、その光が及ぶ範囲の”気温を下げる”光である。

 街路灯から放射される光子がそのフィルターを通ると特殊な光子に代わり、光の及ぶ範囲にある分子の運動エネルギーを低下させる。

 その結果、夕涼み街路灯で照らされる範囲は気温が下がり、猛暑日などは夕涼み街路灯の下で休む人々の姿が目立つようになった。

 そしてやがてこのフィルター技術は家庭内における照明等にも応用され、もはやエアコンがなくても快適な温度を保つことが可能となった。

 運動エネルギーを低下させる技術があるということはその逆も必然的に可能となり、冬には照明の力によって温度を上げることが可能となったのでる。

 そんなある日、ある気象学者がポンッと手を叩いた。

「そうだ、このフィルターで地球も覆ってしまえばいい」

 それは大胆な発想ではあるが、地球をフィルターで覆い太陽光を多角的にコントロールすることが可能になれば地球温暖化はすぐさま解決するというわけである。

 すぐにその計画の実証実験が行われ、世界中を巻き込んだ大規模な計画が動き出した。

 数年かけて人類は巨大なフィルターを設計し、そのフィルターを地球を覆うように宇宙空間に設置した。

 フィルターは問題なく作動し、人類は温暖化やその他気温の高低差による問題から開放されたのである。

 しかし人類は準備を怠った。

 フィルターの設置から数年が過ぎたある日、フィルターの亀裂が確認された。

 当初は微細であったその亀裂が大きくなり、フィルターの亀裂から元の世界と同じ太陽光が降り注いだ。

 想定されたフィルターの耐用年数はまだかなり先だったが、フィルターの破損は止まらなかった。

 それを受け、日本ではすぐに政府より「代替フィルターの準備は完了しています。設置までは一週間程度を予定し」という主旨の発表がなされた。

 強い太陽光を受けて、人類はすでにロストテクノロジーになりつつあった扇風機や団扇などを持ち出した。

 しかし人類は準備を怠っていたのだ。

 フィルターが損傷した場合の代替フィルターの準備、という意味ではない。

 人類が呑気に空を見上げながら「早くしろよなー」などと文句を言っている頃、フィルターの亀裂から彗星にも似た多数の未確認飛行物体が飛来するのを高精度望遠鏡で空を観察していた気象学者の目だけが捉えていた。

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