私は親友のミカと一緒に一学年上の先輩からある怖い話を聞いた。
それは来年から私とミカも通う予定の中学校にまつわる噂だった。
先輩は私たちを怖がらせる為にわざと怖い声で言った。
「中学校の入学式が終わってね、初めての登校の日に学校に行く上り坂の桜並木で誘拐が起きるの」
「誘拐って……さらわれるってことですか?」
「そうよ」
「毎年あるんですか?」
「うん。そう聞いてる。だからその日は休む子も多いのよ」
「誘拐犯は捕まってないんですか」
「誘拐犯っていうか……そんなのいないんじゃないかな」
先輩はそう言ってから、より一層不気味な声で言った。
「きっとさらってるのは人間じゃない。だってね、さらわれた子は、みんなの記憶から消えちゃうのよ。いない子になっちゃうの。この世界から消えた子はどこに連れて行かれるのか、それは分からない。でもね、行き先はこことは別の世界って言われてるの。それでね、さらわれた子は一年後にこの世界に戻ってきて、皆から一年遅れて学校に通うことになるのよ。一年後の生徒として」
先輩のそんな話を聞いて、私とミカは恐怖で思わず体を寄せ合った。
小学校最後の数ヶ月はあっという間に過ぎ、私とミカは揃って中学校に入学した。
そして今日は入学式後の初めての登校日。
私とミカは学校への坂道の下までやってきた。
坂道には綺麗な桜が咲き誇っている。
「私、怖い」
先輩の話を思い出して震えているミカの手を握って「大丈夫だよ」と励ます。
「行こ、ミカ」
「うん」
小刻みに震えるミカと二人、私たちは中学校に向かって坂を登り始めた。
坂道を通っている間、二人は何もしゃべらなかった。
そして、何事もなく坂を登り終えた私たちは二人で喜びあった。
何事もなく入学した私たちは二人でよくあの桜並木の話をした。
「本当に誘拐って起きてるのかな」
「どうなんだろう」
「確かめてみたいね」
「うん」
そんな話の流れで、来年、今年の私たちと同じように登校してくる新入生の数を数えてみようということになった。
そして一年の時が流れた。
私たちは朝早く学校に集合し、新入生が登校してくる前に校門前と坂の始まりの二手に分かれた。
本当に桜並木で誘拐は起きているのだろうか。
校門前を受け持った私は百円均一で買ったカウンターを構えた。
連絡は先日お互い親に買ってもらったスマホで取り合った。
「最初の子が来たよ」
「オーケー」
私は少し緊張しながらカウンターに指をおいた。
やがて最初の一人がやってきた。
カチリとカウンターを押す。
新入生は次々にやってきて、校門を通って校舎内に入っていった。
新入生はみんな初々しかった。
中には去年の私たちと同じように手をつないで坂を登ってくる子もいる。
きっとあの「桜並木の誘拐」の噂を知っている子たちだろう。
私たちもあんなだったなと思いながらカウンターで人数を数えていく。
途中、新入生の列が長く途切れた。
さっきのが最後の一人だったのかなと思っていたら一人の女の子が坂を登ってきた。
慌ててカウンターを押してから顔を上げるとその子と目が合った。
刺すような視線に思わず目をそらす。
怪しまれたかな。
上級生が校門でおかしなことをしていたなんて先生に言いつけられたら面倒だ。
その時、スマホが震えた。
「今の子が最後かなー?」
「みたいだねー」
私たちは校門前で合流し、お互いのカウンターが記録している数を突き合わせた。
二人のカウンターはそっくり同じ数字を示していた。
「なぁんだ、やっぱりあんなのただの噂だったんだね」
「そうだね」
「あれ……でも、そういえば先輩の話では一人誘拐されて、その誘拐された子は一年遅れで入学するって言ってたよね。ということは、数を数えても数字は同じになるはずか」
「そう言われれば、そうだね。じゃあ、ひょっとしたら坂の途中で本当に一人さらわれて、その子の代わりに去年さらわれた子が入れ替わっていたのかもね」
その可能性を考えて、私はぞくっとした。
「ちょっと、怖いこと言わないでよ〜!」
私はそう怒りながら、「お先に〜」とおどけて校舎に入っていくアヤの背中を追った。
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