ピンポン占い

ショートショート作品
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「では始めます」

 私はそう言ってラケットを握った。

 台の向こうに立つ客は卓球初心者とのことなので軽くサーブを打つ。

 客はワタワタと慌てながら球を打ち返してきた。

 ゆっくりとその球を打ち返す。

 今回の客は仕事の相談でこの店にやってきた。

 どうやら転職をするべきかどうか迷っているらしい。

 私はラリーを続けながら質問をした。

「あなたが本当にやりたいことはなんですか」

 客はそんな私の問いかけに「私のやりたいことは……」と思考をめぐらせる。

 その間にもラリーは続く。

 卓球をしながらだと人は本音を話しやすい。

 体はラリーを続けることに精一杯だから余計な雑念が入らないのだ。

「昔褒められたことがあるんです。君は絵がうまいねって。でも、そんなのは……」

ピンポン!

 客の持っているラケットから音が鳴った。

「どうやらそれが正解のようです」

「えっ……」

「あなたには絵の才能がある。まずは今の仕事を続けながら描きたい絵を描いてみたらいかがですか。きっと成功しますよ」

 私がそう言うと、客は爽やかな汗をタオルで拭いながら「ありがとうございます!」とお礼を言って去っていった。

 私の店は「ピンポン占い屋」という名称だが、やっていることは占いというよりコーチングに近い。

 実はラケットに秘密があり、ラケットを振る客の気持ちが一番高揚した時にピンポンと鳴るようになっているのだ。

 もちろん客には内緒である。

 いわゆる企業秘密というやつだ。

 さて、今日もいい汗をかいた。

 仕事終わりの夕食は何にしようか。

 ラーメンがいいかなぁなんて考えながら、私はラケットを持って球を空中に打ち上げた。

 落ちてきた球をまたコンと空中に打ち返して、を繰り返す。

 それともイタリアンがいいかな?

 餃子もいいな。

 焼き肉はどうだろう?

 
ピンポン!

 私のラケットから正解の音が鳴った。

 なるほど、確かにいい汗をかいた後はガツンと焼き肉に限るな。

 私はシャワーを浴びてから、いそいそと焼肉屋にでかけたのだった。

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