腹話術師の受難

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 ものすごく腹話術が上手な腹話術師がいた。

 口を全然動かしていないのに、どうやって人形をしゃべらせているのか、と人々の間で話題になった。

 確かに腹話術師は口を全然動かさずに人形にしゃべらせる。

 これにはある秘密があった。

 実は履いている靴に仕掛けがあったのである。

 靴の中には砂が入っている。

 その砂は、踏みしめると音が鳴る鳴き砂で、腹話術師は鳴き砂をうまく使って人形の声を出していたのである。

 その日も腹話術師は大好評のまま演目を終え、自宅に帰った。

 彼は「お疲れ様」と言いながら砂をケースに戻した。

 他にもいくつかの砂がケースに入れられていて、腹話術師が砂に手を置くと「湿気多くないー?」などと砂が文句を言った。

 鳴き砂を調教して、色々な声を出せるようにしたのだ。

 その日、夜中に地震があった。

 そのせいでケースの中に入れて分けてあった砂が、全部一緒になってしまった。

 腹話術師が恐る恐る砂に手を置くと、砂からバラバラな声がめちゃくちゃに上がった。

 これでは仕事にならない、と腹話術師は頭を抱えた。

 腹話術師はしばらく仕事を休んだ。

 そのまま消えていくかと思われたが、腹話術師は見事カムバックを果たした。

 腹話術師は砂ではなく自分をアップデートしていた。

 靴の中に仕込んだ鳴き砂が出す様々な声に合わせて人形を素早くチェンジする芸に切り替え、再び大ブレイクしたのである。

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