星空包装紙

ショートショート作品
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 友人からフィンランドのお土産をもらった時、私は正直お土産の中身よりも包装紙に興奮した。

「え、何これ……!」

 包装を解いた私は思わず驚きの声をあげた。

 お土産を包んでいた包装紙、その裏側に星空がプリントされていた。

 いや、プリントされているというより、”星空がそこにあった”という表現の方が適切だろう。

 紙に広がる星空では星が瞬き、さらにそんな星を覆うようにオーロラが星空いっぱいに広がっていた。

 さらにお土産のスイーツも今まで夜空の下にあったようにひんやりと冷えている。

 私はすぐに友人にお礼の電話をかけた。

 お土産の礼を言ってから包装紙のことを聞くと、友人はその包装紙について教えてくれた。

 なんでもこの包装紙は「星空包装紙」というもので、今世界中でブームになっているらしい。

 私の趣味が天体観測であることを知っていた友人はフィンランドでこの星空包装紙を見かけて私に送ってくれたらしい。

 友人から星空包装紙のことを教えてもらった私は、さっそくこの包装紙のことを詳しく調べてみた。

 なんでもこれはフィンランド以外にも様々な場所のものが売っているらしく、例えば北極圏のものや星空が綺麗に見える砂漠のものなどが販売されていた。

 値段は決して安くはなかったが、星空フリークの私としては買わないわけにはいかず、私は世界中の星空包装紙を取り寄せた。

 様々な星空包装紙を集め、私はそれを眺めては悦に入った。

 普通なら画像などでしか見ることができない世界中の星空を目の前で見ることができる。

 しかもそれは本物と遜色がない輝きを称えているのだ。

 私は昼夜問わず星空の魅力を堪能した。

 と、ある時、ふとこんなことを思いついた。

「この包装紙に包まれてみたい……」

もしこの星空包装紙で三百六十度、自分の体を包んだとしたら。

 私はそんな思いつきに興奮して、さっそく寸法の大きい星空包装紙を探した。

 しかし星空包装紙は贈呈品を包む用途以外では用いられることがないらしく、あまり大きなものは手に入れることができなかった。

 私はその中でもなるべく大きなものを注文して、それを隙間なく張り合わせることで自分の体を包むことができる星空包装紙を作りあげた。

「できたぞ……!」

完成品に満足した私は、さっそくその巨大な星空包装紙で自分の体を包み込んでみた。

 自分の体の上に包装紙をかけて丸め込むように体の下に持ってくる。

 そして隙間がないように包装紙の隙間を貼り合わせた。

「うわぁ……」

作業を終えた私はあまりの美しさにため息をついた。

 自分の体が星空の中に浮かんでいる。

 何枚か包装紙を貼り合わせて作ったので、普通なら見ることができない位置で世界の星座が隣り合って浮かんでいる。

 私は思わず星に向かって手を伸ばした。

 包装紙が破れるかも、と思ったが、私が伸ばした腕は瞬く星に向かって伸びた。

 私は星空の中に浮いていた。

「あぁ……」

星空の胎内にいるような気持ちで夢のような時を過ごした私は、自分の吐く息が白いことに気がついた。

 そういえば、友人がくれたお土産はこの包装紙に包まれていたおかげでひんやりとしていたっけ。

 つい美しさにばかり気を取られていたけれど、どうやらこの星空包装紙で包まれたものはその星空を見ることができる場所の気温と同じになるらしい。

 星空が綺麗に見える場所は寒い場所が多く、それは昼間灼熱の暑さになる砂漠でも例外ではない。

 さすがに体が冷え切ってきた私は包装紙から出ようと包装紙の切れ目を探した。

 しかし、先ほど閉じたはずの包装紙の切れ目がどこにもなくなっていた。

「嘘っ」

私は慌てて宙に浮かびながら包装紙の切れ目を手探りで探った。

 しかし、ない。

 私は半ばパニックになりながら手足を伸ばしたが、無駄だった。

 容赦のない冷えが私の体を硬直させていく。

 なんだか眠たくなってきた。

 嘘でしょ。

 私、こんなことで死ぬの。

 ごめん、お母さん、お父さん……。

 そんな懺悔をした時、突然頭上の星空がバリッと割れて母親の顔が覗いた。

「あんた、なにやってんの!」

包装紙を破いて私を助け出した母親は、すぐに私を病院に連れていった。

 凍死寸前だった私は、部屋の掃除をするように小言を言いにきた母親によって助けられたのだった。

 もしこれが一人暮らしだったら。

 そう思うとゾッとする。

 私のそんな事件があったからかどうかは知らないが、まもなく星空包装紙は生産中止となってしまった。

 私のような馬鹿はあまりいないだろうが、それでもやはり危険性のある商品だということで作られなくなったのだろう。

 そして、実は私はあの事件からあれほど好きだった星空を見るのが少し怖くなっている。

 助けてくれた母親には悪いけれど、星空を眺めているとそこから巨大な母親の顔が覗くような気がして、私はあまり夜空を見上げる気になれないのである。

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