俺はある競技で日本代表を目指していた。
ある競技とは「ちょんまげ卓球」である。
普通の卓球はラケットで球を打つが、ちょんまげ卓球はちょんまげで球を打つ競技である。
頭を振り、球にちょんまげを当てることで点数を奪い合う過酷な競技である。
まずちょんまげの上に球を載せ「殿!」と発声し、サーブを上げる。
さらにスマッシュを打つ時は「申し訳ございませぇん!」と叫びながら頭を高速で下げて球を打つのだ。
必然ちょんまげ卓球は首に負荷がかかる。
その為、首を鍛える鍛錬が必要だ。
俺は高校の部活でちょんまげ卓球に出会い、代表の座を目指し続けてきた。
そして俺は今、ライバルである三崎との試合に挑んでいた。
三崎とは高校の国体決勝で出会って以来、お互いをライバルと認め合っている仲である。
この試合に勝った方が日本代表の座を一番に得る大事な試合だった。
負けられない。
「申し訳ございませぇん!」
三崎のするどいスマッシュが飛んでくる。
俺は全神経を集中し、そのスマッシュを返した。
と、その時だった。
「ぐっ……」
俺は思わずうめき声を上げて倒れた。
「? ……おい!」
三崎が駆け寄ってくる。
俺はそのまま医務室に運ばれた。
精密検査の結果、医者から通達されたのは「引退」の二文字だった。
これ以上ちょんまげ卓球を続ければ、俺の首、及び神経は日常生活も困難なほどに損傷するという。
病室に見舞いにやってきた三崎に、俺は「もうおまえに謝らなくて済むからせいせいするぜ」とやせ我慢を言って、ちょんまげを落とした。
ちょんまげ卓球から引退した俺は転職活動を行い、ある家電メーカーに就職した。
なんでもやる気だった俺が配置された部署は「コールセンター」だった。
俺の仕事は四六時中かかってくるクレームの電話の対応である。
今日も”買ったばかりなのに電源が入らない”とのお客様からのクレームを受けた。
お客様へのご案内を終えた俺が受話器を置くと、中央のデスクに座る課長に声をかけられた。
「おい、新入り」
課長がこちらに手招きをする。
俺は席を立って課長のデスクに向かった。
「課長、呼びましたか」
「あぁ。おまえ、いい謝りっぷりだな。なんかやってたろ」
「あ……はい、少しちょんまげ卓球を」
「ほう。おれもだ」
課長はにやりと笑ってから言った。
「いいか。俺達の仕事は謝ることだ。しかしそれは卑屈な仕事じゃない。謝ることで会社の人間を守れるんだ。それができるのは俺たちだけ。俺はこの仕事に誇りを持ってる。願わくば、おまえもそうだといいが」
課長はそう言うと「行っていいぞ」と俺を促した。
俺は軽く一礼し、自席に向かった。
三崎、俺はまだまだ輝けそうだ。
心の中でそう語りかけ、俺はまた鳴り出した電話を取った。
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