「うわーー!」
部活から帰って来た私がシャワーを浴びようとお風呂場のドアを開けると浴槽に血だらけのタオルが落ちていた。
「お母さん! お母さーーん!」
大声でお母さんを呼ぶと「何よ〜」と間延びした声で返事をしながらお母さんがやってきた。
「なんなのあのタオル! 怪我したの!?」
「あぁ、それ。違うわよ」
お母さんが事も無げに言ってタオルを持ち上げる。
と、先程まで真っ赤な血に染まっていたタオルがすーっと白くなっていく。
「これね、事件性をアピールするタオルなのよ〜」
「何それ!?」
「私もねぇ、その機能がいらないと思ったんだけど、でも吸水性がすごくいいのよ!」
そう言ってお母さんがシャワーから水を出してタオルに向けた。
するとタオルはすごい勢いで水を吸収し始めた。
シャワーから水が出続けているのにタオルから水が漏れることはなかった。
「ほらね、すごいでしょ」
「いやすごいけど……」
だったらなんで”事件性をアピールする”なんて余計な機能をつけたんだ、と思う。
「すごく吸水性がいいし、それにね、干すとすぐ乾くのよぉ」
「いやもう、分かったから!」
私はそう言ってお母さんを押しのけてシャワーに入った。
まったく、お母さんたらまた変なもの買って。
どうせ吉田さんか誰かにおすすめされたんだろう。
それから私はその訳の分からないタオルに度々脅かされた。
ある時は風もないのに一反木綿のように揺れていたり、またある時はタオルのあるところだけ南極にでもなったようにカピカピに凍っていたりした。
しかしそれらは人が持ったり水を一滴垂らしたりすると元通りになるのだった。
「お母さん!」
「なぁに?」
「あのタオル、人前では使わないでよ!」
「はいはい」
お母さんは私の苛立ちを面白がるように笑った。
そんなおかしなタオルがやってきてから数週間の時が過ぎた。
その日は朝からソフトボール部の練習があり、私は炎天下の中、必死でボールを追いかけていた。
休憩時間になり私がチームメイトの里奈と一緒にグラウンドを歩いていると、「紗季〜!」とお母さんの大きな声が聞こえてきた。
試合の日でもないのに、たまにお母さんは練習を見に来るのだ。
「また紗季のお母さん来てるね」
そう言って微笑んだ里奈に私は「うん」と生返事を返した。
と、その瞬間、隣を歩いていた里奈が突然、バタリと倒れた。
「え、どうしたの!?」
熱中症にでもなったのかと思い、私が里奈を抱き上げると、心配したらしいお母さんがこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと、その子大丈夫?」
「どうした、紗季」
お母さん以外の声に私が顔をあげると、さっきは気づかなかったけれどお父さんも来ていたらしい。
心配そうにこちらを見ているお父さんを見て、私はギョッとした。
お父さんの首が宙に浮いているように見えたからだ。
まるで生首である。
お父さんは不思議そうな顔で「これ使うか?」と言いながら、首に巻いたタオルを私に差し出した。
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