強運の者、求む

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「強運のもの、求む」

 そんなチラシを見つけた。

 中身を読んでみると、何かのゲームの大会のようである。

 景品の欄に「お金で買えるものなんでも一つ」と書いてある。

「えぇ!?」

 なんでも、ってなんでもか?

 僕は半信半疑のまま、とりあえずその大会に応募してみることにした。

 参加費は無料だし、損をすることもあるまい。

 数日後、僕は指定された会場にやってきた。

 会場は東京都心にある豪華なホテルだった。

 事前に説明があった限りでは、僕は今日、ここでサイコロを振るらしい。

 正確に言えば”サイコロを振るだけ”なのだ。

 参加者同士でサイコロを振り合い、出目が大きい方が勝ちとなり次の相手と対戦する。

 そんな至ってシンプルなゲームをするそうだ。

 本当にこんなことで「お金で買えるものなんでも一つ」なんて景品がもらえるのだろうか。

 会場にはかなりの人数が集まっている。

 優勝は一人だけらしいので、確かに優勝するにはかなりの運が必要となるだろう。

「それでは始めてください」

 司会者の合図でゲームがスタートした。
 


 結果。

 なんと僕は優勝してしまった。

 驚異の五十連勝。

 やった、これで景品がもらえるぞ……!

「奥へどうぞ」

 黒い服に身を包んだ係員に案内され、小さな部屋にやってきた。

 真っ暗で何も見えない。

 椅子に座らされた。黒服の人が部屋を出ていく気配がする。

「あのぉ、何も見えないのですが……?」

 不安になった僕がつぶやいた瞬間、パッとスポットライトがついて僕の座っている椅子と目の前にある机を照らした。

 机の上には先ほどまで使っていたものとは大きさも材質も異なるサイコロとそれを振るためらしいお椀のようなものが載っていた。

「この度は優勝おめでとうございます」

 どこからか声が響く。スピーカーがあるのだろうか?

「目の前のサイコロを振ってください。何も考えず、ただそのまま振れば良いのです」

「あの、景品は……?」

「それは後で説明します。さぁ、サイコロをどうぞ振ってください」

 否応なくこちらを急かすようなそんな説明を受け、僕は仕方なくサイコロを持って振った。

 出目は……3。まぁまぁか。

 と、その瞬間、なにやら歓声のような音がどこからともなく聞こえた。

 な、なんだ?

 背後に何者かの気配を感じ、振り向く。

 そこに大きな人が立っている。

 いや、それは……人ではない?

 手足が異常に長く、形容するならばそれはB級映画に出てくる宇宙人のようなものだった。

 宇宙人はふわふわとひどく緩慢な動きで僕の前までやってきて、サイコロを手に取った。

 そしてそのままスーッと消えていく。

 今のは……なんだったのだろう。

 パッと電気がついて、今度は人間がやってきた。

「いやぁ、お疲れ様でした」

 その人はなぜか泣きながら笑っていた。

 ん?

 なんだろう。この人……見たことある。

「あ!」

 僕は思わず声を上げた。

 僕の目の前に立っているその人は、この国の防衛大臣だった。

 防衛大臣はハンカチで涙を拭いながら言った。

「それではさっそく、お望みのものをお聞かせください」

「ちょ、ちょっと待ってください。なんなんですか、これ?」

 僕がそう尋ねると、防衛大臣はしばらく考えるように間を置いてから言った。

「……どうせあなたが言っても誰も信じないでしょうから、いいでしょう。先ほど見たあの異形の者。あれは宇宙人です」

「え!?」

「彼らは、我が国で言うところのすごろくをやっていたのです。星から星へと進むすごろく。そして今回止まったのが地球というわけです。しかもたまたま止まったのがここ、日本の上空でした。彼らは止まった星に知的生命体がいた場合、自分たちの代わりにサイコロを振らせることに決めているそうなのです。だから誰かがサイコロを振る必要があった。そこであなたに振っていただいたのです。出た目は3。彼らは金星、水星と進み、その先の太陽のマス目に止まって銀河系をワープして出ていきました。1か2、すなわち金星か水星に止まった場合”振り出しに戻る”だったそうなので、そんな数字が出たら何をされるか分からなかった。だから強運の人間にこの星の運命を託したんですよ。つまり、なんと言いますかな。あなたは英雄というわけです」

 防衛大臣はそう言って僕に握手を求めた。

 にわかには信じがたい。

 しかし、今の説明でこれまでの出来事に全て説明がつくのも事実だ。

 まさか、僕はそんな大役を任されていたとは……。

 手を握り返し、聞いた。

「彼らはもう来ないんですよね」

「えぇ、もう大丈夫。彼らが振り出しに戻ったらまたここを通るかもしれませんが」

「え!? そ、それじゃあ……」

「ご心配にはおよびません。そのことについて気になった私が彼らに聞いたみたところによりますと、今度ここを通りかかるときはおそらく地球というマス目はもうないそうです」

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