丸視え症候群

ショートショート作品
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 会社がお休みの日。

 ソファの上でダラダラ寝転がっていると、呼び鈴が鳴った。

「はーい」

 間延びした返事をしながらのぞき穴を覗く。

 と、そこに宅配業者の制服を着たおじいさんが立っていた。

 配達員さんにしては随分おじいちゃんだなと思いながら玄関のドアを開ける。

「おまたせしました」

 そんな風に言う声が随分若かったので改めてその姿を見ると、なんと二十代くらいの若い男性だった。

「えぇ!? さっきのおじいさんは!?」

 私は思わず辺りをキョロキョロと見渡した。

 しかしそこには若い男性以外誰もいない。

「あの……?」

 怪訝な顔をする男性から私はとりあえず荷物を受け取った。

 配達員さんが帰った後、私は荷物を部屋に置いてまた玄関に戻った。

 さっきのはなんだったのだろうと思いながら、「こんな感じで見たらいたんだよな……」と玄関ののぞき穴を覗く。

 ん? なんだろう。

 のぞき穴から見える世界に何か違和感があった。

 なんだか建物が古くなっているような。

 もしかして……未来が見えてる?

「そんなことってある!?」

 私は思わず大きな独り言を言った。

 いやいやいや。待て。落ち着こう。

 私は玄関をうろうろと歩き回り、一旦トイレに行くことにした。

 こういう時はすっきりするに限る。

 便座に座りながら深呼吸をしていると、ストックで置いてあるトイレットペーパーに何か違和感を覚えた。

「あー!」

 トイレットペーパーの筒の先に、随分古くなった壁が見える。

 改めて筒から覗くと、そこからも未来が見えた。

 まさか、丸いものを通して見ると未来が見える……?

 私は大慌てでトイレから出ると、パソコンを開いた。

 色々と調べてみると、人によって様々な状況で未来が見えることがあるらしい。

 例えば水晶の中とか。

 それが出来る人がいわゆる占い師になるのだろうか……。

 私の場合は丸いものを通して見ると未来が見えるらしい。

 なんだかおかしなことになった。

 でも、ちょっと面白いかも……?

 翌日。

 会社でも色々な未来を見てみようかななんて思いながらちょっと楽しい気持ちで通勤電車に乗りこんだ私だったが、今日もまたひどい人口密度で、気分が悪くなってしまった。

 電車が揺れた拍子に思い切り肩にぶつかられ、コンタクトレンズがずれる。

 もう、最悪……!

 私はなんとか駅までついてコンタクトの代わりにメガネをかけて歩き出した。

 しかしそのメガネは作ったばかりで度がきつく、先ほどの満員電車の疲れもあって気分がまた悪くなり、道に座り込んでしまった。

「大丈夫?」

 誰かが声をかけてくれる。

「あ、すみません」

と返事をしながら見上げると、イケメンが私の顔を覗き込んでいた。

 あぁ、イケメンだ……なんて場違いなことを考えてしまう。

「あそこにベンチがあるよ」

 イケメンは私をそのベンチまで運んでいってくれた。

「ありがとうございます」

「気分はどう?」

「もう、大丈夫です」

「そっか、よかった。じゃあね」

 イケメンが行ってしまいそうになったので、私はつい「あ、連絡先を……」なんて聞いてしまった。

 初めて会った人に何聞いてんだ私!

「連絡先って?」

 イケメンがきょとんとしながら言った。

「住所は教えちゃダメって言われているから」

「住所……?」

 連絡先って、いや、別に住所じゃなくて……。

 あ、まさか!?

 私は慌ててメガネを外し、そこに立っているイケメンを見た。

 そこにいたのはイケメンではなく、可愛い顔のランドセルを背負った男の子だった。

 そっか、買い替えたメガネは丸い形をしたメガネだから、未来が見えてしまったのか。

「ごめんね、なんでもないの。ありがとう」

 私がそうお礼を言うと、男の子がバイバイ! とこちらに手を振って走り去っていった。

 あの子、将来モテるだろうなぁなんて思っていると、男の子の元に同い年くらいの女の子が走り寄ってきて、彼に抱きついた。

 どうやら未来ではなく、すでにモテているらしい。

 私は男の子に連れてきてもらったベンチで少し休んでから会社に向かったのだった。

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