私がまだすごく小さい頃、お母さんが「おはようパジャマ」というものを買ってきてくれた。
朝、なかなか起きられない私に買ってきてくれたそのパジャマは、ずいぶん長い間私のお気に入りのパジャマになった。
お母さんは私にそのパジャマを着せながら、こんなことを言った。
「このパジャマを着て寝ると、起きなくちゃいけない時間になったらパジャマがくすぐって起こしてくれるんだよ」
「パジャマが!?」
「そう。あとね、眠る時に体がポカポカになるように布団を温めてくれるの。これで夜は早く眠れるし、朝もちゃんと起きられるようになるよ」
「やった!」
それから私はいつもおはようパジャマを来て眠るようになった。
オレンジ色の可愛いパジャマ。
パジャマはいつも私をくすぐって起こしてくれて、夜は体を温めてくれたから、私は冬でも布団に入るのが嫌じゃなかった。
「みっちゃんはすごいなぁ」なんてお父さんが褒めてくれたのをよく覚えている。
だから、おはようパジャマがもうだいぶ小さくなって、お母さんに「普通のパジャマで寝ようね」と言われた時は寂しかった。
でもその頃私は子供扱いされたくない年齢に差し掛かっていて、本当はまだおはようパジャマで眠りたかったけれど、やせ我慢して普通のパジャマを着たのだった。
そんな私も一児の母となった。
私に似て寝つきも寝起きも悪い娘の陽菜の為に、私はおはようパジャマを買ってあげることにした。
しかし近くの百貨店やインターネットを探してみても売っているところを見つけられなかったので、私はお母さんに電話をかけた。
「私がさ、昔着てたおはようパジャマってやつあるじゃない?」
「あのオレンジのパジャマ?」
「そうそう! それをね、陽菜にも買ってあげたいから、売っているところを教えて欲しいんだけど」
「そうねぇ。買ったのはずいぶん昔だから。今は売ってないのかもねぇ」
「そっかぁ〜……」
「あんたのお古でよければあるけど」
「え、あれまだあるの!?」
「あるわよ」
「物持ちいいなぁ。じゃあ、送ってもらっていい?」
「分かった」
お母さんからの荷物は翌々日に届いた。
大きな段ボールに、オレンジ色のパジャマと紙おむつや食料品が入っている。
ありがたいなぁと思いながらビニール袋に入ったオレンジ色のパジャマを取り出した。
すると、小さなメモ用紙がするりと落ちた。
拾ってみると”おはようパジャマの使い方”と書いてあった。
読んでみる。
「おはようパジャマを着せてあげたら、その日は陽菜ちゃんが寝る前に布団の下にホットカーペットを敷いてあげましょう。陽菜ちゃんが寝たらそっと外すこと。そして朝はこっそり陽菜ちゃんの足をくすぐって、目を覚ましそうになったらすぐに逃げること。がんばって」
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