彼とキャンプにやってきた。
前の日に雨が降ったらしく、テントの設営をすると手がドロドロになってしまった。
「汚れちゃったね」
彼にそう言うと、彼が突然ぴーっと指笛を吹いた。
「もうすぐ来るよ」
「え?」
「あ、ほら!」
彼が指差したほうを見ると、なんとおしぼりがひらひらと空を飛んでこちらにやってきていた。
「あれは、おしぼり鳥という鳥でね。最近ハマっているんだ」
おしぼり鳥は私の手まで飛んでくると、普通のおしぼりになった。
「この子たちはね、契約さえしておけばいつでも来てくれるんだ。使い終わったら空に返すだけで、巣に戻っていく。巣といっても、倉庫なんだけどね。そこで消毒をしたりして、また呼ばれたら飛んでくる、というわけさ。最近はおしぼりの他にも色々なタイプがいるみたい」
私はおしぼり鳥で手を拭いて、拭き終わると空に返してあげた。
おしぼり鳥はまたひらひらとどこかに飛んでいった。
キャンプを楽しみ、帰ろうと車に乗り込むと、私の手に細かい繊維のようなものがついていた。
「なんだろう、これ。ゴミかな」
私がつまんで捨てようとすると、彼が「待って!」と大声を出した。
「ど、どうしたの?」
「ごめんごめん。それ、おしぼり鳥の赤ちゃんかもしれない」
「赤ちゃん!?」
「うん。おしぼり鳥はね、たまにそうやって卵を産むんだよ。その子を一から育てれば、自分だけのおしぼり鳥になるかも! お世話も水をあげるだけだから楽だし、僕が飼ってみてもいいかな?」
彼がそう言うので、私は彼の手におしぼり鳥の卵をつけた。
しばらくして彼の家に行ってみると、あのおしぼり鳥がすっかり大きくなっていた。
おしぼり、とまでは行かないが、コンビニなんかでもらえるお手拭きくらいの大きさになっている。
「大きくなったのはいいんだけど、まだ子供だからね。なんでも拭きたがっちゃって困るんだ」
そう笑う彼の手におしぼり鳥がとまる。
「汚れているでしょ? 洗濯を嫌がるんだよね。ほら、お風呂入るぞー」
彼が捕まえようとすると、おしぼり鳥はひらりと飛んでそれをかわした。
そして私の頭の上までやってくると、体をぎゅーっと絞った。
黒い水が頭の上から降ってくる。
「わーー!」
「こ、こら!」
どうやらこれは、おしぼり鳥の、いわゆる排泄にあたる行為らしい。
「ごめん! 服は洗っておくから、シャワー浴びて!」
彼の言葉に甘えてシャワーを借りる。
おしぼり鳥といえど、子供の世話は大変だ。
シャワーを出ようとすると、バスタオルがなかったので、彼に「バスタオルあるかな?」と尋ねる。
「あぁ、ごめん。もうちょっとだけ待ってもらえるかな」
「洗濯中?」
「ううん。おしぼり鳥を飼うんだったら、もういっそ全部、と思って取り替えちゃったんだ。さっき呼んだから、もうすぐバスタオル鳥がやってくると思うんだ」
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