総務部で働いている私のところに、一人の営業マンがやってきて言った。
「こちらのホッチキス、とても珍しいものでして。風化ホッチキスというものです」
「見たところ普通のホッチキスのようですけど」
「えぇ、えぇ。おっしゃるとおり、見た目は普通のホッチキスなのですが、こちらのホッチキスで廃棄したい書類などをとめると、風化してなくなってしまうのです。紙の廃棄料の節約になるというわけでして」
営業マンはそう言って私に映像を見せた。
それはホッチキスでとめた書類がふわぁっと風化してなくなっていく映像だった。
「へぇ、これはすごいな」
「そうでしょう、そうでしょう! こちら一度お貸ししますので、まずはお試しで使ってみてください」
営業マンからホッチキスを受け取った私はとりあえず手元にあるいらない資料などをホッチキスでとめてみることにした。
翌日、会社にやってくると、ホッチキスでとめた書類が綺麗サッパリなくなっていた。
これは確かに便利だ。
私はまたやってきた営業マンからホッチキスを買って、社内の支給品にすることにした。
それからしばらくして。
ある事件が起きた。
会社の機密情報が漏れ出したのだ。
予算案や機構改革人事などの情報が漏れているらしい。
なぜそんな重要な情報が漏れたのか、社内は大騒ぎになった。
調べを進めると、どうやらそれらの情報は風の噂となって広まったものらしい。
まさか……!?
あのホッチキスで風化させた資料の情報が、どこかで復元されているのでは。
私は慌ててあの営業マンに電話をかけたが、名刺の番号にはつながらなかった。
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