骸きび

ショートショート作品
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 私は夏休みに妹と一緒におじいちゃんの家に遊びにきました。

 いつもはお母さんやお父さんと一緒に来るのですが、今年は妹と二人だけです。

 二人でやってきた私たちをおじいちゃんは歓迎してくれました。

 おじいちゃんの家についた私と妹は、おじいちゃんと一緒におじいちゃんのとうもろこし畑でとうもろこしを取りました。
 

 夜になって。

 私と妹はとうもろこし畑ではしゃぎ回って疲れていましたが夕方にたっぷり昼寝をしたのであまり眠くありませんでした。

 そこで私はおじいちゃんに「怪談を話して」とお願いしました。

 最近、小学校のみんなで怪談を披露し合うのが流行っているのです。

 私は色々な人に怖い話はないかと聞いて回っており、面白いお話を聞けたら友達に話して聞かせていました。

 おじいちゃんは「そうだねぇ」と考え込んでからこんな話を始めました。
 

 とうもろこし畑では、毎年一つだけおかしなとうもろこしが取れるそうです。

 それは「骸(むくろ)きび」と呼ばれるもので、一見普通のとうもろこしだそうです。

 しかしその粒をよく見ると、それは全部骸骨で、こちらを見て笑うのだそうです。

 おじいちゃんがそこまで話したところで妹が怖がって私の服にギュッとしがみつきました。

 おじいちゃんが言いました。

「骸きびを見つけたら、それをどうすると思う?」

「ん〜。分かんない。捨てちゃう?」

「惜しい。けど違う」

 おじいちゃんはそう言ってブルブルと震えました。

「おじいちゃん……?」

「くべるんだよ、火に。そうするとな……」

 おじいちゃんは私と妹の目を見て言いました。

「ポップコーンになるんだ」

 一瞬、きょとんとした私と妹は、おじいちゃんが笑い出したことで初めておじいちゃんがふざけていることに気が付きました。

 それから私たちはおじいちゃんが用意してくれた部屋でお布団に入って寝ました。

 昼寝をしたけれど体は疲れていたようで私も妹も布団に入ってすぐ眠りましたが、私はトイレに行きたくなって夜中に目を覚ましました。

 妹を起こさないように忍び足で部屋を出た私は一人トイレに向かいました。

 用を足してから私が廊下を歩いていますと、廊下にある窓から月の光が差し込んでいるのが見えました。

 そしてその薄ぼんやりとした光の差す先には玄関があり、そこに昼間おじいちゃんと私たちとで収穫したとうもろこしが積み上げられていました。

 とうもろこしをなんとなく眺めていた私は、とうもろこしが一瞬動いたように感じました。

 私はとうもろこしに近づきました。

 月明かりに照らされたとうもろこしをよく見ると……その粒がすべて骸骨でした。それも、そこに積み上げられていたとうもろこし全部がそうでした。

 骸骨がくるりとこちらを見た気がして、私は慌てて踵を返して部屋に逃げ帰ろうとしました。

 その途中、廊下に置いてあった棚の上の写真立てをバタンッと倒してしまいました。

 私が歩みを止めると、背後からキィっと扉の開く音がしました。

 振り返るとおじいちゃんの部屋のドアが少しだけ開いています。

 私は何故かとても恐ろしくなって、おじいちゃんに見つからないように部屋に逃げ帰り、頭から布団をかぶりました。

 翌朝、私は妹の手を取りながらおじいちゃんに言いました。

「ごめん、おじいちゃん。私たち帰るね」

 私と妹は荷物をまとめ、おじいちゃんの家を後にしました。

 妹は不思議がっていましたが、私は何も言いませんでした。

 突然帰ってきた私たちにお母さんは驚いておじいちゃんの家に電話をしていました。

「あぁ、お父さん。え、何?」

 お母さんはそんな風におじいちゃんと電話で話していましたが、私は逃げるようにすぐに部屋に入りました。

 そんなことがあったひと月後、私はお母さんからおじいちゃんが亡くなったと聞かされました。

 私はお母さんとお父さん、そして妹と一緒におじいちゃんのお葬式に出ました。

 お葬式が終わって、疲れた様子のお母さんが、ある日ぼそっと私にこんなことを言いました。

「そういえば……おしいちゃんがね、あの日の電話で言ってたの。”美羽ちゃんには分かるんだなぁ”って。あれ……何のことだったのかなぁ」

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