彼の実家であるこの町にやってきた私は、七輪の上に載っている餅をじっと見つめていた。
(限界……)
お腹はぺこぺこだった。
何しろ、お昼にこの町についてからすぐに私は餅をついたのだ。
今日はちょうどこの町で行われる”餅ランタン”のお祭りの日だったのだ。
自分で餅をつき、それを七輪で焼くのだが、その餅がよく出来ていると七輪の火がポッと餅の中に移って、餅がぷかーっと浮かぶらしい。
空に浮かぶ”スカイランタン”と呼ばれるものに似ているのでその名がつけられたそうだ。
そしてその浮かんだ餅に願い事を言うと、その願い事が叶うという言い伝えがあるらしい。
彼から聞いたそんな話を思い出していると、ふいに目の前の餅に火が灯り、その美味しそうなお餅がふわりと浮いた。
「ほ、ほら、早く願い事言わないと!」
隣にいる彼が慌てた様子で言う。
周りにいる人も「お、お姉ちゃんすごいな!」なんて言いながら盛り上がっている。
子供が目を輝かせながら「いいなー!」と浮かんでいる餅を指差した。
「ね、願い事ね! えーっと、えーっと!」
私が願い事を考えていると、浮かんだ餅がぽふっと空気を吐き出して七輪の上に戻ってきた。
「あ〜」
周りからため息が漏れる。
「間に合わなかったねぇ」
そんなことを言いながら彼が笑う。
しかし私は、そうではなく願い事が叶ってしまったのだと思った。
餅ランタンが浮かび上がった時、思わず願ってしまったのだ。
「早くお餅が食べたい!」
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