「部屋にあるもの、少しは捨てなさい! 床が抜けるよ!」
お母さんがまたそんな大げさなことを言う。
お母さんは二階にある私の部屋にやってきては、時々そうやって小言を言うのだ。
いつもは適当に聞き流しているのだが、今日はそうもいかなかった。
お母さんが謎の風呂敷を広げ、その風呂敷の上に部屋の物を次々と置き始めたのだ。
「ちょっと、何するのよ!」
私は大慌てで風呂敷に置かれた物を回収した。
「あんたがいつまでも掃除しないからね、借りてきたのよ」
「何よそれ?」
「これは……なんて言ったかな。名前なんて忘れちゃったけど、いるものといらないものを仕分けしてくれる風呂敷なのよ」
「はぁ?」
お母さんによると、どうやらその風呂敷に品物を包んで持ち上げると、本当にいる物以外は風呂敷をすり抜けて落ちてしまうらしい。
「何それ、ほんとー?」
「本当だってば!」
お母さんはそう言ってまた色々と物を風呂敷で包もうとする。
「分かった、分かったって! ちょっと自分でやってみるから!」
私はお母さんから風呂敷を奪い取って、自分で試してみることにした。
「うーん、どれがいいかな……」
しばらく迷ってから、本棚の漫画を手に取る。
一冊はもう読みすぎて飽きてしまった漫画。
もう一冊は、一回読んだけどまた読むと思う新品同然の漫画。
この二冊を包んで、新品同然のものだけが残ればこの風呂敷は本物だということだ。
「よし、やってみるよ」
「早くやんな」
お母さんに急かされながら、私は二冊の漫画を風呂敷に包んだ。
そして「えいっ」と掛け声をかけながら持ち上げてみる。
すると……なんと読みすぎて飽きた漫画の方が風呂敷の中に残って、まだ新品同然の漫画がするりと落ちた。
「何これ、ダメじゃーん!」
私が言うとお母さんは「おかしいねぇ……」とぼやきながら風呂敷を広げ、首を傾げていた。
そんな風呂敷事件から長い時間が過ぎて、私はようやくあの風呂敷が正しかったことを知った。
あの時、まだ新品同然だったのに風呂敷からするりと落ちた漫画の電子書籍版を先日購入した。
今の時代は電子書籍という優れたものがあるので、必ずしも紙の本を手元に残しておく必要はない。
しかし、あの、何度も読んで飽きてしまった漫画は別だった。
あの漫画本はまだ私の手元にあって、私はそれをたまにぺらぺらとめくっている。
その漫画本には、当時まだ小さかった私と妹が二人でした落書きが残っていて、私はこの本を開く度、懐かしい気持ちになるのだった。
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