おじさんはシャボン玉名人

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私はおじさんのことがとても好きでした。

実家のすぐ近くに住んでいたおじさんはシャボン玉名人で、普通とは違うシャボン玉をたくさん教えてくれました。

いつもシャボン玉遊びをする神社の境内にやってくると、おじさんはシャボン玉液の配合を始めました。

「みっちゃん、割れないシャボン玉を吹いてみる?」

おじさんにそう言われて私がおじさんの渡されたストローをぷーっと吹くと、大きな丸にちょっとコブができたシャボン玉ができました。

「ほら、これで」

おじさんが先のちょっと尖った木の枝を渡してくれて、私はそれでシャボン玉を突いてみました。

シャボン玉は全然割れませんでした。

両手で思い切りペチンと挟んでみても割れません。

割れないシャボン玉は風に乗ってふーっとどこかに飛んでいってしまいました。

「あのシャボン玉はどうなるの?」

「割れないシャボン玉だからね。きっとずっと遠くまで飛んでいくさ」

そう言っておじさんは今度は別のシャボン玉を見せてくれました。

そのシャボン玉は音を閉じ込める”声玉”というもので、しゃべりたいことを言いながらストローを吹くとその中に声が閉じ込められるというものでした。

私は声玉に「わ!」という声を封じ込めてふわっと空に浮かべました。

声玉は枯れ木の方に飛んでいって、やがてその木の枝で割れました。

途端に「わ!」という声があたりに響いて枯れ木に止まっていたスズメが一斉に飛び立ちました。

「おもしろね」と私が言うと「そうだろう」とおじさんが笑いました。

ある日おじさんは私を夜中に連れ出して、空が広く見える山に連れてきました。

天気の良い夜で、空には星々が輝いていました。

おじさんが大きなシャボン玉を作って「覗いてごらん」と言いました。

空をたゆたうシャボン玉を覗いてみると、その先の星が肉眼で見るよりも数倍くっきりと見えました。

「これは望遠玉だよ」とおじさんは教えてくれました。

私は望遠玉を通して様々な星を間近に眺めて遊びました。

おじさんはいつもそうやって私と遊んでくれて、だから私はおじさんが大好きでした。

私の結婚式では、おじさんは七色に光るシャボン玉で式場を彩ってくれました。

私が実家を離れて暮らすようになってもおじさんはたまに声玉の便りをくれました。

窓にふわりと飛んできたシャボン玉をパチンと割ると「みっちゃん、たまには帰っておいで」とおじさんの声が聞こえるのです。

仕事や育児が忙しくてなかなか実家に帰れない日々が続いて、おじさんの便りがあまり届かなくなった頃、母からおじさんの体調があまりよくないということを聞きました。

私がおじさんを訪ねると、おじさんは布団に横になりながら「あれをみっちゃんにあげるよ」と言いました。

おじさんが言っていたのは、あの不思議なシャボン玉たちを作り出す道具でした。

私はなんとなくそれが遺言のように聞こえて「また元気になったらシャボン玉を作ってよ。娘と遊びに来るから」とその時は受け取りませんでした。

その年の冬におじさんは亡くなって、私は葬儀が終わってからおじさんとよく遊んだ近所の神社に行きました。

懐かしい神社を散歩していた時、私の目の前にふわりとシャボン玉が飛んできました。

そのシャボン玉は丸いシャボン玉に小さなコブができている不格好なシャボン玉で、私の目の前でゆらゆらと揺れて地面に落ちました。

シャボン玉は地面からポーンと跳ねて、また私の目の前にやってきました。

つん、と突いてみてもシャボン玉は割れませんでした。

私はこれがおじさんと一緒に作った「割れないシャボン玉」だと分かりました。

小さなコブをつけた割れないシャボン玉は、やってきた時と同じようにふわりと空を飛んで消えていきました。

それを見ていたら、私は何故だかおじさんのシャボン玉道具を使ってみたくなりました。

私はどんなシャボン玉を作ろう。

まずは娘と一緒に声玉で遊ぼうかな。

そんなことを考えながら、私はおじさんの家に戻りました。

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