私はカメラとペンを持って資産家の家にやってきた。
資産家は威厳たっぷりに言った。
「私のコレクションを見たいだって? ふん。無駄だと思うがね」
資産家はため息をつきながら私をコレクションルームに案内した。
私は壁に飾ってあるものを見て資産家に言った。
「おぉ……これは蛇の皮ですか」
「何!? おまえ、これが見えるのか!」
資産家は突然饒舌になった。
資産家の男が集めているのは「化けの抜け殻」である。
動物やその他の生き物が化けの皮を脱ぎ捨て、妖怪などに変化する時に脱ぎすてる皮。
この男はそれを収集しているのだ。
男は上機嫌に話し続ける。
「こっちは狸のでな、今はさぞや大物になっているだろう」
「これは人のだよ。人も化けの皮を脱ぎ捨ててあやかしに変化することがあるんだ」
男は「化けの抜け殻は見つけるのが大変でねぇ」などと目を細めている。
男が「そしてこれはだね」とコレクションの一つを紹介しようとした時、私は近くにあった消化器を持ってコレクションを守っているガラスを割った。
あらわになった抜け殻を私が掴むと男が叫んだ。
「何をする! それは私のものだ!」
「いいや違う。これは私のものだ。あなたは嘘をついている。確かに最初は化けの抜け殻を偶然見つけたのだろう。だがそう都合よく抜け殻が見つかるわけがない。だからあなたは”剥がした”んだ。この狐の皮は私のものだ」
私はそう言って今まとっている化けの皮を脱いだ。
「どうした? 妖狐の姿は恐ろしいか」
男は私の姿を見て腰を抜かし、這うようにして逃げていった。
私はその後を追い、屋敷を出てから屋敷に火をつけた。
せめてもの供養だ。
男に無理やり皮を剥がされたものは、皆、悪霊や悪妖になったことだろう。
この私のように。
その魂が少しでも静まるように私は祈った。
「あぁ……あぁ……私のコレクションが」
男が燃え盛る屋敷を見ながらつぶやく。
「これでも額縁に飾れ」
私は屋敷に落ちていた抜け殻を男に投げつけた。
それは男自身の抜け殻である。
化けの皮が剥がれた男は一回りも二回りも小さい、卑小な存在に成り果てていた。
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