悪寒おかん

ショートショート作品
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 昔から母は勘が鋭い。

 僕が何か悪いことをしようとすると、悪寒が走る。

 見ていないはずなのに、どこかで母が見ている気がするのだ。

 母いわく「虫の知らせがあると念を送っているのよ」とのことらしい。

 そんな母による悪寒は僕が一人暮らしを始めてからも続いた。

 帰りが遅くなったり不摂生をしていたりすると背中に悪寒が走るのだ。

 母に聞くと「悪さしてないかたまに念を送ってるのよ」との答え。

「やめろよ! 俺はもう子供じゃないんだよ。監視されているような気分になるからやめてくれ」

 僕がそう強く言うと母は「分かった」と答えた。

 それから悪寒が走ることはなくなった。

 あぁ、せいせいしたと思っていたら、ある日急に悪寒が走った。

 母に電話をする。

「また何かしたろ?」

「してないわよ」

「本当?」

「うん」

「ならいいんだけど……」

 電話を切った僕は、じゃああの悪寒はなんだったのかなと思いながらベッドにもぐった。

 次の日、朝起きると熱が出ていた。

 昨日の悪寒は母によるものではなく風邪のせいだったらしい。

 僕がベッドの中でうなされていると部屋の呼び鈴が鳴った。

 よろよろと出てみると、母からの宅配便だった。

 中に、温めるだけで食べられるおかゆや経口補水液、梅などが入っている。

 僕は母に電話をかけた。

「荷物、届いたよ」

「あらそう」

「なんで分かったの」

「なんとなくよ」

「……ありがとう」

 電話を切った後、僕はおかゆを温めて食べた。

 念を送るのを解禁してもいいかななんて思っていると、また悪寒が走ったのでベッドに戻る。

 今のは風邪のせいなのか母のせいなのかどっちなのだろうと思いながら僕は目を閉じた。

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