夜、寝転びながらテレビを見ていたら、背後から何か気配を感じた。
振り返って見てみると、なんとそこにシーツが浮かんでいる。
「うわーーー!」
僕が叫び声を上げると、いつも僕より先に寝る妻が「どうしたのー?」と目をこすりながらやってきた。
「こ、これ! シーツがひとりでに浮いてる!」
「あぁ、それ。買ったのよ」
「えぇ!?」
「そのシーツは、持ち主が寝るべき時間なのに寝てないと迎えにくるシーツなの」
「なにそれ!?」
「設定した時間にね、その人が寝ていないと迎えに来るの。可愛いでしょ。待っても来ないと、勝手に戻ってグッチャグチャになっちゃうのよ。ほら、シーツって直すの大変じゃない? シーツなりの抗議ってわけね」
「なんだそりゃ……」
「それでも寝ないと、最終的に家出をしちゃうのよ。だからほら、もう寝なさい」
僕は妻に言われて、寝る準備をした。
ふわふわと浮いていたシーツは僕より先に寝室に向かい、いつも通りベッドに収まっていた。
その日、僕はなんとなく居心地の悪さを感じながら眠りについた。
そんなシーツに最初は驚いたが、だんだんその存在にも慣れてくる。
シーツが迎えに来ても、僕は「あと5分だけー」とテレビを見続けた。
すると、とうとうシーツが家出をしてしまった。
僕が慌ててシーツを探し回っていると、お隣の佐藤さんが届けに来てくれた。
佐藤さんはどうしてそれが我が家のシーツと分かったのだろうと不思議に思ったが、どうやら妻がこんな時の為にシーツに名前を書いておいたらしい。
シーツが家出をしてお隣に迷惑までかけてしまってからは、さすがに時間通りちゃんと眠るようになった。
しかし最近、困ったことが起きている。
シーツが僕よりもテレビを見たがるのだ。
「ほら、もう寝るぞ」
僕がそう言ってシーツを引っ張っても、シーツは”あともうちょっとだけ”と言うように踏ん張るのだ。
そんなある日、いつもどおり「ほら、もう寝るよ〜!」なんてやっていると、トイレに起きた妻が「ギャー!」と叫んだ。
「どうしたんだよ?」
僕が聞くと、妻がシーツを指差しながら言った。
「そ、そのシーツ、普通のシーツよ」
「え?」
「いつものシーツはクリーニングに出してるの!」
妻に言われて僕がシーツを見ると、シーツは床に落ちて普通のシーツになっていた。
そんなことがあってから数日後に、この部屋を紹介してくれた不動産屋さんと話をする機会があった。
その時に僕が何気なくシーツの話をすると、不動産屋さんは「あぁ、やっぱり」と納得したような顔になった。
「やっぱり、というと?」
「その部屋は座敷わらしのようなものが住んでいるようなのですよ」
僕は朝食を食べながらテレビを見ようと電源をつけた。
だが、見れない。
我が家に住み着いている座敷わらしは、シーツを被っていれば姿を現してもバレないと思ったらしい。
あれからシーツを被った座敷わらしがテレビを見に来るようになったのだ。
僕と一緒に朝食を食べていた妻が、
「わらちゃん、見えないよ〜」
と勝手につけた名前で座敷わらしを呼んで笑った。
コメント