注射忍者

ショートショート作品
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 とにかく注射が苦手だ。

 私は昔から予防接種などの注射を恐れてきた。

 それなのに、また今年も予防接種の季節がやってきてしまった。

 思わずため息をついた私に、友だちが言った。

「いいサービスがあるよ」

 友だちが紹介してくれたのは「注射忍者」というサービスだった。

 吹き矢の要領で忍者が注射を打ってくれる。

 もちろん忍者はきちんと注射を打つ資格を有している。

 忍者は知らないうちにやってきて注射を打ってくれるらしい。

 私は、さっそく注射忍者をお願いすることにした。

 いつ来るか分からないので、緊張感がある。

 しかし忍者は一週間経ってもやってこなかった。

 そして、私が注射忍者のことをすっかり忘れてしまった頃、ぷすっと、腕に一瞬痛みが走った。

 見ると、いつの間にか注射が終わっている。

 え、もう終わったの!?

 痛いことは痛いけれど、注射を打たれるまでの嫌さがないのがとてもいい。

 なんていいサービスなのだろう!

 次の年も、私は注射忍者に予防接種をお願いすることにした。

 だが、いつ来るかいつ来るかと身構えた私は敏感になりすぎ、とうとう忍者の注射を避けてしまった。

 忍者は何度も注射を試してくれたが、私はことごとくかわしてしまった。

 しかし、おかげで私は新しい才能に目覚め、ついに「背眼流」という護身術の流派を立ち上げることになった。

 背後から近づく何者かの気配を察知し、手を出される前に相手を制する。

 背眼流は女性を中心に人気を集め、最終的には注射忍者の忍者たちにも稽古をつけるまでになった。

 背眼流の門下生は増え続け、順調に流派は大きくなった。

 唯一問題があるとすれば、毎年の注射が怖いままということである。

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