湿気花

ショートショート作品
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 ママ友の家に遊びに行った時のこと。

 季節は梅雨で、どこもかしこもじめじめしていたのだが、そのママ友の家はカラッとして過ごしやすかった。

 部屋に綺麗な花が飾ってあったので「綺麗な花だね」と褒めると、彼女は言った。

「あぁ、これね。ヒューミッドフラワーって言うの。日本語訳すると”湿気花”ね」

「え、なにそれ?」

「湿気で咲く花よ。この季節なんか重宝するの。部屋の湿気を吸ってくれるから、洗濯物がすぐ乾くし。この花にはね、普通に水をあげてもダメなの。それだと水が多すぎちゃうみたい。湿気を吸うことで育つってわけ」

「へぇ〜! じゃあ、お世話も簡単そう」

「うん、何もしなくていいからね〜」

 私は自分の家の庭でガーデニングをしていたのだが、ミニトマトとかきゅうりとか、食べられるものばかり育てていた。

 本当はお花も育てたいと思っていたのだけれど、どうしてもその労力を考えると食べられるものばかり選んでしまう。

 でも、この湿気花ならいいかもしれない。

 私はさっそく湿気花を購入し、部屋の中で育てることにした。

 すると、じめじめ嫌な湿気を湿気花が全部吸い取ってくれて、部屋干しの洗濯物もすぐに乾くようになった。

 梅雨が過ぎて、夏休みになると、娘の服の洗濯機会が増えた。

 湿気花があるので部屋干しでもいいのだが、さすがに夏は外に干した方がやっぱり気持ちいい。

 となると、湿気花を少し持て余してしまう。

 湿気花を紹介してくれたママ友に相談すると、こんな方法を教えてくれた。

「あぁ、この季節はお風呂場に置いてる。水回りはどの季節でも湿気がすごいから」

 なるほど、その手があったか。

 私はさっそく湿気花をお風呂場に移動した。

 湿気花はお風呂場の湿気を吸って綺麗に咲き誇った。

 よし、これで一安心だ。

 家で遊んでいた娘に声をかけて、私は買い物に出かけた。

 スーパーから帰ってくると、お風呂場から湿気花が消えていた。

「あれ!? ない!」

 慌てている私に、娘が言った。

「あぁ、あのお花? 庭に出したよ。こんなところに置いておいたら可哀想じゃん」

 嫌な予感がする。

 私は急いで庭に向かった。

 あぁ、やっぱり……。

 夏の日差しが降り注ぐ中でも、湿気花は綺麗に咲き誇っていた。

 しかしその傍らで、ミニトマトやきゅうりの水分が奪われ、かさかさになっていた。

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