私は小学校で「噂おばけ」の噂を聞いた。
この小学校には”噂おばけ”というおばけがいるらしい。
その噂を聞いた時、私はすぐには信じなかったのだけれど、ちらほら「噂おばけに会った」という子が現れ始めたのだ。
でも私はそんなの嘘だろうと思っていた。
そんなある日、廊下を一人で歩いていたら後ろから誰かに「ねぇ」と話しかけられた。
振り返ったけれど、そこには誰もいない。
誰もいないはずの廊下で、また声が聞こえた。
「学校の裏門から見える、黄色い屋根のお家にあるコンクリートの壁から犬が覗くことがあるんだって」
見えない声はそんな噂話を私に話した。
言われたことが気になった私は実際に黄色い屋根のお家まで行ってみた。
すると、コンクリートの壁にある穴からちょこんと犬が顔を出した。
「可愛い」
私は穴から顔を出した犬のお鼻をなでた。犬は気持ちよさそうに目を細めていた。
そんなことがあってから、私も友達に「噂おばけは本当にいるよ」と話をした。
何人か自分も噂おばけに会ったという友達から聞いたところによると、噂おばけのする噂は「通学路にある田んぼにはタニシがたくさんいるらしいよ」「高橋先生の引き出しには飴玉がたくさん入っているらしいよ」なんて可愛らしい噂ばかりだった。
そんな小学校時代の思い出から長い時間が流れて。
私は生徒に出すプリントを作りながらふと噂おばけのことを思い出した。
人の噂も七十五日と言うが、おばけの場合は違うらしい。
私は小学生の時に噂おばけから聞いた噂をずっと覚えている。
職員室の窓から廊下の方を見ると、一人の女子が誰もいないのに何かに耳を澄ませていた。
もしかしたら噂おばけがあの子に何か噂話をしているのかも。
女子がこちらを見て、くすっと笑った。
案外私のことを噂されているのかもしれないなと思いながら、私はプリント作成に戻った。
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