臨死体験バーベキュー

ショートショート作品
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 天にも昇る美味しさのバーベキューを食べられるお店があるらしいとの噂を聞いて、私はさっそくその店の予約をした。

 単に美味しいものを食べたい訳ではない。

 去年亡くなってしまった飼い犬のミッコに会いたいのだ。

 私は亡くなったミッコがちゃんと天国に行けたのかを確かめたくて、色々な人に会った。

 でもそのほとんどはとんでもない嘘つきで、イタコのおばあさんがミッコのフリをして「ワーンワン」と言った時は本当に腹が立った。ミッコはあんな鳴き方をしない。

 そんな人ばかりだと知った私は、これはもう私が直接会いに行くしかないと考えた。

 だから幽体離脱をする方法なんかを調べて試してみたのだが、なかなかうまくいかなかった。

 そんな時に天にも昇るくらい美味しいバーベキューの噂を聞いたのである。

 バーベキューを食べに来た私はコテージのような建物に案内された。

 どうやらこのお店では一つのコテージに一組の予約客を案内する仕組みらしく、コテージにはすでにお肉や野菜などのバーベキューの材料が用意されていた。

 案内してくれた従業員さんが最初だけ一通りの食材を焼いてくれる。

 従業員さんが去ってからお肉や野菜を食べた私はあまりの美味しさに驚いた。

 ひと噛みする度に旨味が口いっぱいに広がる。

 私はあまりの美味しさにぼーっとしてしまった。

 そして気がつくとそこはコテージではなく、ふわふわした雲の上だった。

 私はいつのまにか天に昇っていたらしい。

 雲の上の世界はとても静かで、足元の雲がさざなみのように小さく動いていた。

 と、近くの雲から虹色の光が伸びて半円の虹を作っていた。

 そしてその虹の上をミッコがてくてくと歩いている。

「ミッコ!」

 私がそう呼ぶとミッコはこちらに気づいてタタタッと虹を駆け下りてきた。

 私の元まで走ってきたミッコを抱きとめた私はいつものようにミッコの頭を撫でた。

「ミッコ。よかった。ちゃんとここにいたのね……」

 私が撫でながら言うと、ミッコはしっぽを元気よく振った。

「ミッコ、一人で寂しくない?」

 ミッコの顔を両手で包みながら聞くと、ミッコがくるりと振り返った。

 すると、いつの間にかたくさんのわんちゃんがそこに集まっていた。

「お友達?」

 ミッコに聞くと、ミッコは私の周りをぐるりと回った。嬉しい時の合図だ。

 たくさんのお友達がいるらしいミッコの姿を見て私は安心した。ミッコはとても寂しがり屋で、少し家を留守にするだけでも私が帰ってくるとびょんびょん跳ねて喜んでいたのだ。

 雲の向こうに、微かに煙が見える。

 ミッコがその煙に気づいてそちらに走っていった。

 他のわんちゃんたちと一緒にミッコを追いかけると、そこは先程まで私がいたコテージだった。

 ミッコがバーベキューの食材を見つけてふんふんと匂いを嗅いでいたので、私は犬でも食べられる食材だけを焼いてミッコやそのお友達のワンちゃんに食べさせてあげた。

 ミッコや他のみんなと一緒にバーベキューを楽しんだ私は、雲の上でミッコとお別れをした。

「バイバイ、ミッコ」

 私が手を振りながらそう言うと、ミッコは尻尾を大きく振って友達と一緒に私を見送ってくれた。

 はっと目が覚める。

 私は元のコテージに一人、座っていた。

 と、ちょうどそこに従業員さんがやってきて「料理はお楽しみいただけましたか」と私に聞いた。

「えぇ……。本当に、美味しかったです」

「それはよかったです」

 従業員さんはそう言って伝票をこちらに差し出した。

 私はその伝票を見て目玉が飛び出そうになった。

 ミッコやお友達のわんちゃんにたくさん食べてもらったからだろう、値段がとんでもないことになっていたのである。

 私はあやうく天に召されそうになりながら料金を支払い、コテージを後にした。

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