私は医者である。
現在、ある症状に悩まされる患者が増えている。
患者たちは一様に「前よりも多弁になってしまった」と訴える。
つまり、おしゃべりになってしまったというのだ。
その原因はどうやら一種の花粉症らしい。
その花粉症に感染すると、普段は喋らないようなことをしゃべってしまう。
治療は困難を極めるが、そんな症状を喜んでいる人種もいる。
芸人さんである。
彼らはしゃべることが仕事なので、この花粉症にすすんでかかりたがる。
中には、あえて花粉を取り寄せたりしている人もいるそうだ。
そんな中、ある患者から相談を受けた。
彼は芸人の卵で、将来はお笑い芸人になりたいのだとか。
そのため、この多弁花粉症にかかりたいというのだが、花粉を吸っても一向にかからないそうなのだ。
「たくさん花粉を吸えば、いずれ発症するはずなんですがね」
私はそう説明するが、来る日も来る日も花粉を吸い続け、それでもダメらしい。
そんな時、彼と同じ症例があることを知った。
それは一種の特異体質で、多弁になってしまう花粉の成分を分解、反転させ、寡黙花粉症を発症してしまうそうなのだが……。
コメント