入れ歯図書館

ショートショート作品
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 孫のスズちゃんと仲良くなりたくて、私はよくスズちゃんに自分で考えたお話を話しました。

 まだ小学校低学年のスズちゃんは私の考えた物語を楽しそうに聞いてくれて、その時々で色々な質問をしてくれました。

「蜃気楼ってなぁに?」

「許婚ってなぁに?」

 スズちゃんにそう質問される度に私は答えました。

 けれどスズちゃんの質問は段々難しくなってきて、私では分からないことも出始めました。

 私がスマートフォンなどを扱うことができれば簡単に調べて答えられるのでしょうが、私には難しそうです。

 スズちゃんはいつも一生懸命質問してくれるのでなんとかうまく答えたいなと思っていたところ、チラシで良い商品を見つけました。

 それは「入れ歯図書館」というものです。

 その入れ歯をはめれば、どんな質問も入れ歯が瞬時に検索して、答えを私の声で答えてくれるというのです。

 私は恥ずかしながら歯がほとんどなく入れ歯をはめていたので、これはいいぞとその商品を取り寄せました。

 その入れ歯をはめてからというもの、スズちゃんに何を聞かれても答えられるようになりました。

 スズちゃんはそれを喜び、前よりもたくさん質問をしてくれるようになりました。

 よほど嬉しかったらしく、スズちゃんは私のことを小学校のクラスメイトにも話したようです。

 家の近所に住む子供たちが私のところに遊びに来るようになりました。

 私の部屋は一階にあったので、子供たちはやってきては窓をコンコンと叩いて、色々なことを私に聞きました。

 子供たちに好かれて私も悪い気はしませんでした。

 毎日毎日私のことを訪ねてくる子供たち。

 その度に私は入れ歯図書館をはめて子供たちの疑問に答えるのでした。

 しかしいつの日からか、その中にスズちゃんの姿が見えなくなりました。

 もしかして他の子たちに「スズちゃんは家族だからいつでも聞けるでしょ」とでも言われたのかもしれません。

 だから私はスズちゃんに「何か聞きたいことはないかい」と尋ねました。

 しかしスズちゃんは「何もない」と言うばかりで、以前のように私のところに来てくれなくなってしまいました。

 どうしようと思いましたが、連日私のところを訪ねてきてくれる子供たちを無下にすることもできず、私は子供たちの質問に答え続けました。

 しかしある時、子供たちがこんなに私のところへ来てくれるのは、この入れ歯のおかげに過ぎないと気がつきました。

 そもそも子供たちの質問に答えているのも、全てこの入れ歯なのです。

 私はなんだか子供たちに嘘をついているような気がして、もう入れ歯をするのをやめました。

 子供たちがやってきて質問をしてくれても「ごめんね。もう分からないんだ」と答えました。

 次第に子供たちの足は遠のいていき、私の部屋にはもう誰も来なくなりました。

 入れ歯図書館を外し、元の入れ歯をはめた私は寂しい時間を過ごすようになりました。

 そんな私のところに、久しぶりにスズちゃんがやってきて「教えて」と言いました。

 私が「ごめんねスズちゃん。もう教えてあげられないよ」と言うと、スズちゃんは首を横に振って言いました。

「あのお話の続き、教えて」

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