孤島のレシピ本

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 外国の料理ツアーに参加した一人の日本人シェフが帰りのフェリーに乗っていた際、そのフェリーが海難事故を起こし、シェフは無人島に漂着した。

 そのシェフは、漂着した無人島であるレシピ本を発見した。

 雨風で崩れそうになっている古いレシピ本。

 そのレシピ本には見たことのないレシピばかりが載っていた。

 本に載っていたレシピの中で特にシェフが気になったのは”至高の料理”とされる魚料理である。

 メインに使っている魚はありふれた白身魚だったが、その材料には塩、バターなどの他に見たことのない果実が記されていた。

 それはイラストを見る限り、無人島に生えていた見知らぬ果実のようだった。

 シェフはその至高の料理を作ってみたいと思ったが、何しろそこは無人島なので材料は元より調理器具すらない。

 至高の料理とは、一体どんな味なんだ……!?

 果実をそのままかじってみると、苦いような甘いような、正体不明な味がした。

 シェフはその味とレシピに書かれている材料を混ぜ合わせて口の中で味を再現しようとしてみたが、うまく行かなかった。

 やがてシェフは救助隊によって無人島から救助された。

 その際、シェフは無人島になっていた果実を持ち帰りたいと訴えたが、何も持ち帰ることは許されなかった。

 救助後、日本に帰還したシェフは、心配して帰りを待っていた妻との会話もそこそこに日本を立った。

 あの無人島の果実を求め、再びかの国へと向かったのだ。

 しかしシェフがいくら探してもあの果実は見つけられなかった。

 まさか、国全体であの果実の存在を隠しているのか。

 シェフはそんな思いに囚われつつも果実を追い求めたが、ついに見つけることができなかった。

 シェフは見知らぬ国で途方に暮れた。

 一方、シェフが旅立った後、彼の家の庭で見知らぬ植物の芽が生えていた。

 無人島で過ごしたシェフの服にあの果実の種が付着しており、その種が偶然庭で芽吹いたのだった。

 芽は少しずつ大きくなろうとしているのだが、その芽に向かって人影が迫ってきた。

「あら、見たことのない雑草ね」

 シェフの妻はそう言って植物の芽をプツっと摘み取ったのだった。

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