私がまだ中学生の頃、「ほかほかふりかけ」というふりかけが一時的に流行った。
そのふりかけは、お弁当にかけるとご飯やおかずがほかほかになるというすぐれものだった。
発売開始後、ほかほかふりかけはすぐに話題になり私や他のクラスメイトもみんなほかほかふりかけを持ってきていた。
しかし程なくして、理由は分からないがほかほかふりかけの回収騒ぎが起きた。
慌てふためいた教頭先生が教室にやって来て「学校側で代表して集めますので、今持っている人は出してください」とみんなのふりかけを回収していった。
私たちは便利なアイテムがなくなってぶーぶー言っていたのだけれど、数日後クラスに転校生がやってきたりして、結局ほかほかふりかけ騒動はうやむやになったのだった。
しかし私はある疑念を持ちながら今まで暮らしてきた。
卒業が間近に迫った頃にはその思いつきに囚われるようになった。
卒業から十年の時が流れたが、私はその間にインターネット上のアングラサイトなどでほかほかふりかけの回収事件について調査を続けた。
そしてそこで確信を得たのだった。
ほかほかふりかけは、かけた対象を”ほかほかにする”のではなく、その料理の”時間を逆行させる”ふりかけだったのだ。
ふりかけをかけると、料理が出来たての時間まで逆行する。その結果、ほかほかになるのだ。
ほぼ十年ぶりに会った当時のクラスメイトに、私はそんな話をした。
するとみんな懐疑的な表情をして「そうだったのかなぁ」「そんなことある?」などと言った。
そんなみんなに向かって、私は言った。
「証拠が今からやってくるわよ」
「証拠って?」
みんな不思議そうな顔をして私のことを見ている。
そう、これからやってくる。
”彼”にはみんなと違う集合時間を知らせてあった。
数分後、彼がやってきた。
あの頃、転校生として私たちの学校にやってきた山崎くん。
会うのは卒業して以来、十年ぶりだ。
「やぁ。みんな、久しぶりー」
そう言って私たちの席に向かってきた山崎くんを見て確信が確証に変わった。
毎日同じ教室に通っていた時は微妙な変化に気がつけなかった。
だが、十年の空白期間を置いて彼を見た私と、そしてクラスメイトたちもその正体に気がついた。
山崎くんが来る前に、私はみんなにある写真を見せておいた。
それは、私が入学した時にもらった、先生たちの写真だった。
そこには学年の担当教員の他に校長先生や教頭先生も映っていた。
十年ぶりに会う転校生の山崎くんの顔。
その顔にはどこか教頭先生のおもかげがあったのだ。
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