かつて警察の捜査に音叉が使われていた。
音叉とは、楽器の音合わせなどに使われるU字型の器具である。
その音叉は主に取り調べで用いられた。
被疑者が嘘をつくと、微量の音が音叉から発せられるのだ。
この音叉の前では、誰も嘘をつけない。
おかげで数々の真実を暴いてきたが、弊害もあった。
音叉からは常に微量な、聞こえないくらいの音が鳴っていて、その音を知らずしらずのうちに聞いてしまう刑事が、段々嘘つきになってしまうのだ。
結局、この音叉は危険だということで警察の倉庫に封印された。
と、そこに警視総監が視察にやってきた。
この警視総監は正義一辺倒な人間で、稀代の正直者だということで有名だった。
「これがその音叉かね」
警視総監が音叉を持ちながら言う。
「微量な音を発しているというが、何も聞こえんが。耳が遠くなったのかな」
警視総監はそう言って、はっはっは、と豪快に笑った。
すると、音叉にヒビが入り、バリンと音を立てて壊れた。
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