エンペラージェル

ショートショート作品
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 俺は学生時代の友人と飲みながら仕事の愚痴を言った。

 友人は疲れ切った俺の顔を見て「ヒゲくらい剃れよ」と笑った。

「それくらい忙しいのよ」

「身だしなみは大事だぜ。いいジェルをやるからさ」

 そう言って彼はチューブに入った髭剃り用のジェルを差し出した。

「なんだこれ。エン……なんて読むんだ」

「おまえは昔から英語が苦手だからなぁ。まぁ使ってみなよ」

 翌朝から俺はそのジェルを使って髭を剃った。

 するとどうしたことか、全てにおいて調子がよくなったのである。

 例えば、いつもは跳ね返されるような仕事の提案がすんなり通るのだ。

 俺がうんと言えば、うん。俺が首を振ればみんな振る。

 そんな調子だ。

 気分が良い。

 
 俺は友人を呼び出してジェルのことを聞いた。

「なんなんだよ、あのジェル? 俺の気のせいなのか?」

「気のせいじゃないよ。ジェルの効果が出始めたんだ」

「どういうこと?」

「あのジェルはさ、”エンペラージェル”というものなんだ。エンペラーってのは英語で皇帝のこと。あれをつけて髭を剃ると、人を顎で使えるようになるのさ」

「えぇ!?」

「でもまぁ、使いすぎには注意しろよ。くれぐれもな」

 俺は友人からそんな不思議な話を聞いてからも、引き続きエンペラージェルを使った。

 ジェルの効果はすさまじく、最終的に社長まで顎で使えるようになった。

 まるで本当に皇帝になったみたいで気持ちが良かった。

 しかし、ある日を境に、ジェルの効果がなくなってしまった。

 誰も俺の言うことを聞かない。

 それどころか、無視されるようになった。

 一体何が起きたんだ!?

 俺は友人をまた慌てて呼び出した。

 俺の話を聞いた友人は笑いながらこう言った。

「刺されなかっただけありがたく思えよ」

「は?」

「おまえはあのジェルを使いすぎたんだ。だから平民の不満がつもって”革命”が起きたんだよ。もう誰もおまえの言うことは聞かない。だからほどほどにしろって言ったろ?」

「そんな……。俺はどうすればいいんだ!?」

「どうしようもないよ。おとなしくジェルを塗るのをやめて……すっぴん、もとい素寒貧の状態からやり直すんだな」

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