暖房ソイル

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 彼と一緒にキャンプにやってきた。

 真冬のキャンプである。

 彼が私を連れてきてくれたのは豪雪地帯として有名な地域のキャンプ場なのだが、どれだけ雪が降っていてもキャンプができる場所があるらしい。

 彼に連れられてやってきたその場所はちょうどテントを張れるくらいの大きさの区画だけ雪がなく、茶色い地面が顔を出していた。

「どうなってるの、これ」

 私が彼に尋ねると、彼はしゃがんで茶色い土に触れながら言った。

「触ってごらん」

 彼に促され土に触ると、その土は温かかった。

「温かい」

「これはね、発熱する土、”暖房ソイル”と呼ばれている土なんだ。これが敷き詰められているので、ここだけ雪が溶けているんだ。雪がたくさん降る地方にはロードヒーティングという設備があって、雪を溶かす電熱線が駐車場の下に埋まってたりするんだけど、その応用だね」

「へぇ……面白いね」

 私は彼と一緒にテントを張った。

 普通、この時期のキャンプは寝る時の寒さ対策を万全にしなくてはならないが、ここは床にあたる土が温かく、床下暖房のようになっているので何もしなくてもぽかぽかだった。

「ぽかぽかだね」

「でしょ?」

 私は彼と一緒にテントの中で眠った。

 その夜、私はある夢を見た。

 自分がウインナーになって、大きなフライパンの上で焼かれる夢である。

 悪夢を見た私は夜中に目を覚ました。

 汗がダラダラと首元まで垂れている。

「う〜ん、熱い……う〜ん……」

 横で寝ている彼もそんな風にうなされていた。

 床を触ってみると、土がものすごく熱くなっている。

 私は慌てて彼を起こし、テントの中から脱出した。

 どうやらこのあたりに敷き詰められている暖房ソイルの故障らしい。

 キャンプ場の管理人室に向かって訳を伝えると、キャンプ場の人がコテージを貸してくれた。

 管理人さんはこちらが恐縮するくらい何度も何度も頭を下げていた。

 
 翌朝、私たちはテントを回収し、車に乗り込んだ。

「まぁ、まだまだできたばかりの技術だから仕方ないね」

 彼がそう言うのを聞いて、私はひらめいた。

「そっかぁ。これからの技術。まさに”発展土壌”だね」

「え?」

「あ、いや、発展土壌って……」

「え? あ、あぁ、発展途上と土壌ってことね?」

「そ、そう……」

「あ、あはは。そうだね。うん」

「……」

「……」

「なんか、寒くなったね……」

「うん……」

 帰りの車内の空気は中々温まらなかった。

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