夢の中で人を殺す殺し屋がいた。
彼の名前はサナダ。
彼に狙われると、朝起きた時にはもう死んでいる。
夢の中の出来事が現実世界に影響を及ぼすのである。
人間の脳は自分が「死んだ」と認識すると生命活動を停止してしまうそうだが、そんな特性を活かした完全犯罪だった。
サナダは四六時中眠って仕事をこなしていた。
人から依頼された人間を夢の中で殺す。
静かに、確実に。
狙った獲物は逃さない。
ある日、風間という男が依頼をしてきた。
サナダはその殺しを引き受けた。
ターゲットは若い女。
サナダはいつものように眠って女を狙った。
夢の中で女を発見し、ナイフを振り上げる。
まるで無防備な女に向かってナイフを振り下ろした瞬間、その手を女に取られて組み敷かれた。
女は言った。
「サナダ。あなたを逮捕します」
どうやらこの女は刑事らしい。ということは依頼人の風間もグルか。
しかしサナダはにやりと笑って言った。
「夢の中の殺人が罪になるのか?」
「なるのよ」
「何?」
「もう目を覚ます頃よ」
サナダは目を覚ました。
するとそこに風間が立っていた。
「現行犯逮捕だ、サナダ」
「……」
「四六時中眠ってずっと夢を見ていたお前は知らないだろうが、夢の中で犯した犯罪が現実世界に影響を及ぼした場合、立件できる法律ができたんだよ」
サナダは自分の頬をつねったが、その現実から覚めることはなかった。
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