佐竹は疲れていた。
いつのまにか中年と呼ぶ以外にない年齢に達し、疲れの取れない体になってしまったのだ。
そんな時、佐竹は健康に良いと言われる、ある食堂の噂を耳にした。
食べてすぐ寝る、”食う寝る食堂”というものである。
そんな馬鹿な、と佐竹は思ったが、どうやら本当らしい。
食堂と名前はついているが、どうやらその実態はホテルらしい。
ホテルを訪れた佐竹に、ホテルの従業員は言った。
「当ホテルの食事は、味は最高級のものを再現していますが、胃の中にはほとんど溜まらない特殊なものなのです。ですので、食事をとってすぐに眠っていただくことができるのですよ」
それを聞いた佐竹は質問した。
「食べてすぐ寝て、牛なんかにならないでしょうね」
従業員は一瞬言葉に詰まって、だがすぐに大きな声で笑い始めた。
「ははは、ご冗談を」
それから佐竹は、運ばれてきた食事を食べた。
なるほど、それはうまい料理で、満ち足りた気分で佐竹はそのまま眠りに落ちた。
歯磨きは寝ている間にやってくれるそうだ。
朝、佐竹は目を覚ました。
佐竹は、ここ何年も味わったことのない爽快感を覚えていた。
なんというか、しっかりと眠れた感覚があるのである。
それから佐竹はそのホテルに通い詰めた。
うまい食事をとって、良質な睡眠をとる。
佐竹の体の調子は、すこぶる良くなった。
胃の中に物が入って安心するから、深い眠りになるのだろうか、と佐竹は思った。
ある日、いつも通り眠りについた佐竹だったが、夜中に目を覚ました。
コーヒーを飲み過ぎたのだろうか。
寝る前にコーヒーなどのカフェインの含まれたものを口にするのは禁止されていたが、飲んでしまったのである。
ちょっと散歩でもするか、と思いホテルの廊下に出た佐竹は、どこかから聞こえてくる電話の声を聞いた。
それはあの従業員の声であった。
「えぇ、えぇ。次の肉はもう準備できています。しっかりと睡眠成分を吸っておりますので、安眠していただけるかと。中年男性で、佐竹という名前なのですが……」
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