スイッチのある部屋

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 おかしな部屋に入居してしまった。

 入居前に内見をしなかった僕も悪い。が、この部屋も悪いと思う。

 この部屋にはとにかくたくさんスイッチがあった。

 そのうちの一つを押してみると、ピンポーンと呼び鈴の音がして、出てみると誰もいなかった。

 別のスイッチを押すとゴゴゴっと地鳴りがして、部屋の広さが微妙に変わっていたりした。

 中には、押すとなぜか届け物が誤配されてくるボタンなどもあった。

 このおかしな部屋は、元は何かの施設だったのだろうか?

 しかし、こんなおかしな部屋でも住めば都のようで、次第にあまり気にならなくなった。

 そんな部屋に住んで二年後、引っ越しをすることになった。

 朝から慌ただしくて、朝ごはんに食べていた味噌汁を床にこぼしたり、とにかくガチャガチャと動き回った。

 それでも引越し業者による搬出が済んで、さて新居に向かうかと思っていると、それまで家具で見えなかったところにボタンがあるのを発見した。

 押してみようか。いやいや……。

 結局、好奇心に負けて押してしまった。

 すると、先ほど部屋を出ていったはずの引越し業者が戻ってきた。

 そして家具を元の場所に置き始める。

「何してるんですか!?」

 私が言うと、引越し業者の人は「か、体が勝手に!」なんて言って、結局荷物を全部置いて去っていった。

 気がつくと、自分の体も勝手に動いている。

 まさか、これは、時間が巻き戻っているのでは……!

 やがて僕はシンクに置いてある台ふきんを持ってきて、お椀に味噌汁を……。

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