捜査一課の刑事、佐伯は苛つきながら貧乏ゆすりを繰り返した。
佐伯はこの数日に頻発している行方不明者の捜査指揮を行っている。
その事件は通称「水たまり誘拐事件」と呼ばれ、課を横断しての捜査が行われているのだった。
佐伯が座っているのは警察署内に設置された捜査本部である。
佐伯はここで各捜査員から入る報告を受けているのだ。
そこに一人の刑事が駆け込んできた。
「また目撃情報が入りました。三十代の会社員女性が帰り道で水たまりに消える人を見たと言っています」
佐伯は報告を受け、苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「馬鹿な。狐に化かされているんじゃあるまいし……!」
佐伯はこの一ヶ月、水たまり誘拐事件の捜査に追われ自宅に戻っていなかった。
ある日、一人の女性刑事に「シャワーくらい浴びてください」と言われ、佐伯はしぶしぶ警察署内のシャワー室に向かった。
「クソ……!」
佐伯は乱暴な手付きで髪を洗うとさっさとシャワーを出ようとした。
すると、その瞬間、ぐいっと何者かに腕を引っ張られたような格好になってシャワー室に引き戻された。
「! てめぇ……!」
佐伯は腕を伸ばし、着替えの方へ手を伸ばした。
時を同じくして。
捜査一課に捜査員からの報告が入った。
これまで行方不明だった人々が次々に見つかったらしい。
行方不明になっていた人は皆、元いた場所で見つかったようだ。
その知らせを受け、一人の刑事が指揮官である佐伯を呼びにシャワー室に走った。
すると、シャワー室で佐伯が倒れており、その腕に手錠がはめられていた。
そしてその先、手錠の反対側には濡れそぼった狐の腕が……。
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